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<title>電気蚯蚓は宇宙を夢見る</title>
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<description>村松恒平責任編集/ブログ文芸誌…面白い小説が読みたい人、小説家になりたい人、エッセイや文章が書きたい人、プロの編集者に編集してもらいたい人。そういう人々のための必殺ブログ雑誌。</description>
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<title>世紀末の女王（マザー） 第六話</title>
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<description> 泰司は岩に腰を下ろし、見るとも無く縦穴を見下ろしていた。縦穴へは大洞窟内の空気が吹き込み、医療軍の制帽からわずかに出ていた前髪をなびかせている。また、大洞窟のひび割れた天井からは、弱い光が線となって泰司の近くに差し込んでいた。それは、まるで泰司を空間ごと切り取り時間の流れを止めてしまったかのようで、泰司の想いは過去に向かっている。スローモーションで三名の少年が穴の中を転落していく。過去何度となく見た、その映像に、泰司は心の奥底で叫ぶ。それでも、１２年の年月は泰司に取り乱さな...</description>
<dc:subject>世紀末の女王（マザー）</dc:subject>
<dc:creator>村松恒平</dc:creator>
<dc:date>2008-01-27T11:11:04+09:00</dc:date>
<content:encoded><![CDATA[
　泰司は岩に腰を下ろし、見るとも無く縦穴を見下ろしていた。<br />縦穴へは大洞窟内の空気が吹き込み、医療軍の制帽からわずかに出ていた前髪を<br />なびかせている。<br />また、大洞窟のひび割れた天井からは、弱い光が線となって泰司の近くに<br />差し込んでいた。<br />それは、まるで泰司を空間ごと切り取り時間の流れを止めてしまったかのようで、<br />泰司の想いは過去に向かっている。<br />スローモーションで三名の少年が穴の中を転落していく。<br />過去何度となく見た、その映像に、泰司は心の奥底で叫ぶ。<br />それでも、１２年の年月は泰司に取り乱さないだけの安定をもたらしている。<br /><br />　無線機の着信音が追憶を破る。<br />泰司はすばやく気持ちを切り替える。<br />『任務は完璧に果たす』　心に誓う。<br />「こちら飛行船本部。他の分隊、未だ発見なし。<br />隊長のポイントに現れる可能性、大。　ご注意を」副長の栗山が笑う。<br />「了解、それは楽しみだ」　泰司は答える。<br />逃走した山田博之の捜索に医療軍は２０名を投入していた。<br />十数キロ平米の大洞窟内の八箇所を泰司は選び出し、捜索隊を投入した。<br />泰司以外の七箇所にはそれぞれ二名を配し、残り５名が飛行船に乗り込み<br />大洞窟内を往復している。<br />泰司の単独行動は絶対的な格闘力の自負心から、隊長権限で決定し、<br />隊員にも異論はなかった。<br /><br />　『あの村に行き着けるかもしれない』<br />鍾乳洞内を巡り歩いていた博之は、奥の知れない横穴を見つけた。<br />博之の脳裏には、居住地で囁かれていた「村」の存在が浮んでいた。<br />その村に行けば、厳しい労働から解放され安らかに生きる事ができる。<br />その村を博之も密かに憧れていた。そして、今追い詰められた博之には、<br />その村しか逃げ先はなくなっていた。<br />『村で一端落ち着き、機を見て爺ちゃんを助け出そう』<br />博之は横穴の中で歩を進める。<br /><br />　強い風が縦穴に吹き込み、泰司の意識は再び穴の中に向かった。<br />１２年前、泰司は医療幼年隊の卒業ミッションとして一隊十名を率いていた。<br />大洞窟内に隠された隊旗を見つけ出し、速やかに帰還を果たすという指令だった。<br />この縦穴捜索時に隊員全体で穴に下りたいという強い要望に泰司は押し切られた。<br />通常なら、泰司は適性のある隊員を選別して、捜索させたはずであった。<br />しかし、卒業を迎かえ、各隊員は試練を乗り越えることに、強い意義を<br />感じていたのだった。<br />そして、一時の妥協が悲劇を招いた。<br />未熟な一隊員が足を滑らせ、二名をも巻き込み落下した。<br />三名は、激流の音が鳴り響く暗い穴底に、飲み込まれていった。<br />彼等は二度と戻っては来なかった。そして５年後には死亡が宣告された。<br /><br />　目前がわずかに明るくなるとともに、川の音が強くなった。<br />博之の歩が早まる。<br />五メートル下の穴底には強い水の流れがあり、上方十メートルには一段と<br />明るさがあった。どうやら縦穴は終わっているようだった。<br />『登ろう』　博之の心には村への期待が高まった。<br /><br />　泰司は懸命に叫び声を押し戻していた。<br />川に飲み込まれてしまった少年が、亡霊となって縦穴を登って来る。<br />泰司は思わず穴から引き下がる。<br />その時、肘に無線機が触れ、わずかに冷静さを取り戻す。<br />努力を振り絞り、穴の中を再び覗く。<br />『バグだ』<br />博之は無線に「緊急……　発見」と小声で告げ、着信音をバイブモードにした。<br /><br />　縦穴を登り切り、虫化された博之の両の手が、縦穴の縁を強く掴んだ。<br />続けて、体を引き寄せ持ち上げれば、博之の上体は縦穴から乗り出す。<br />　　　　<br />　まさに、そのタイミングを狙って、泰司は攻撃に出た。<br />頭部そして肩、手首を何度か鋭く蹴った。<br />バグの落ちまいとする意識が、泰司への攻撃と防御を控えさせている。<br />バグを穴下に墜落させる意図は、元より泰司には無かった。<br />バグが落下に気をとられている間に、出来るだけ相手の筋力と気力を<br />殺いで置きたかった。<br />そして、山田博之を落下させるかもしれないリスクを敢えて選び、<br />泰司自身の過去を克服したかったのだ。<br /><br />　地表へ出ようとする度に打撃を受け、博之はあがいていた。<br />足を滑らせ、ずり落ち、そこで一呼吸をつき、ようやく冷静さを取り戻した。<br />落ちた瞬間に、兵士の顔に走った動揺が博之には気になっていた。<br />『どうやら、俺を突き落とす気はないらしい……　ならば　』<br />呼吸を整え、一気に地表によじ登った。その間、何度か打撃は襲ってきたが、<br />予期した打撃は耐えられ、博之は登る事に集中できた。<br /><br />　地表に出た瞬間、バグの大きな横払いが来て、泰司は飛びのいた。<br />バグの赤らんだ顔からは激しい怒りが伝わってくる。<br />泰司には自然と笑みが浮ぶ、『さて、どうして捕まえてやろうか』<br />バグは手首を鎌のようにして、腕を振り落として来る。<br />虫化人間の強い筋力を考えれば、あたれば肉は削がれ、<br />骨はへし折られてしまうだろう。<br />風切り音を掻い潜り、泰司は退く。もう少し下がると、やや広めの平地がある。<br />『そこで、捕まえる』<br /><br />　『落ち着け、落ち着け』博之は心に言い聞かせた。<br />怒りで攻撃が単調になっている。兵士は攻撃を見切ったかのように、<br />避ける距離を縮めている。<br />『よし、このまま単調でいき、慣れきった所で一気にトドメを刺す』<br />数度、同じパターンの攻撃を加え、反転、一機に間合いを詰め、横殴る。<br />兵士は避けきれない。充分な打撃が確信できた。<br /><br />　「ギャルルルー」　叫び声を上げたのは博之の方だった。<br />強い痛みの後、右上腕が痺れている。<br />兵士はいつのまにか黒い電撃棒を両の手にひとつひとつ握っていた。<br />それを博之に翳すと、間合いを詰めた。<br />電撃が両肩を襲い、両腕が垂れる。『力が入らない』<br />一端、飛びのいて様子を伺っていた兵士が、また迫ってくる。<br />後は蹴りで兵士を牽制するしか、博之には術がなくなってしまった。<br /><br />　「くそ、爺ちゃんを返せ、医療軍め！<br />全部知っているぞ、何もかにも。爺ちゃんは生きている」<br />兵士が退くのをやめ、立ち止まる。<br /><br />　「馬鹿だな、お前は。そんな事を言えば一族すべてを逮捕、隔離だ。<br />お前が口走った事は、そのくらい重大な機密なのだぞ」<br />驚きで身を固くした博之の頭に父母や妹の顔が浮ぶ。<br />『どうする？　どうしたらいいんだ』<br /><br />　「俺は何も知らない、何も知らないんだ」<br />目に止まった石くれを兵士の顔めがけて、蹴り上げ、続けて兵士にとび蹴りをする。<br />身を低め、危うく避けた兵士を飛び越し、反転、後方から蹴りを入れる。<br />兵士は転がり、蹴りを避ける。博之は兵士を見据え、今度は縦穴へ走る。<br />「俺は何も知らないんだ」　兵士に向かって叫ぶと博之は縦穴の中へ飛び込んだ。<br /><br />　悲鳴が消えて、泰司が縦穴を覗き込んだ時には、暗い穴底からは川の水音が<br />聞こえるだけで、何の物音も聞こえなかった。
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<item rdf:about="http://denkimimizu.seesaa.net/article/71324207.html">
<title>バイト明けの朝、次の日の夕暮れ</title>
<link>http://denkimimizu.seesaa.net/article/71324207.html</link>
<description>１. 缶は広い部屋の天井付近から次々と現れ、壁沿いに這ったレールをループして作業台まで落ちてきて溜まる。彼は作業台に立ち、溜まった缶を段ボール箱に詰め続けている。 彼は思う。缶の流れ落ちる音はこの広い部屋にさぞ騒々しく響いていることだろう。と、しかし彼には聞こえない。強力な耳栓が音を完璧に遮断している。 この広い部屋には彼の立っている作業台の他４台の作業台があり、その内２台は昼間しか使用しない。夜間は彼を含めた３人のバイトがそれぞれの作業台で、止めどなく流れ落ちては溜まる缶を...</description>
<dc:subject>その日とそのほかの日</dc:subject>
<dc:creator>村松恒平</dc:creator>
<dc:date>2007-12-06T23:03:02+09:00</dc:date>
<content:encoded><![CDATA[
１.<br /><br />　缶は広い部屋の天井付近から次々と現れ、壁沿いに這ったレールをループして作業台まで落ちてきて溜まる。彼は作業台に立ち、溜まった缶を段ボール箱に詰め続けている。<br />　彼は思う。缶の流れ落ちる音はこの広い部屋にさぞ騒々しく響いていることだろう。と、しかし彼には聞こえない。強力な耳栓が音を完璧に遮断している。<br />　この広い部屋には彼の立っている作業台の他４台の作業台があり、その内２台は昼間しか使用しない。夜間は彼を含めた３人のバイトがそれぞれの作業台で、止めどなく流れ落ちては溜まる缶を箱詰めしている。<br />　広い部屋の３つの作業台。彼はずっと一緒のバイト仲間とまだ一度も言葉を交わしたことがない。ひとりは若く、短く刈り込んだ茶色な髪を帽子で覆い、“いつ止めてもいいんだぜ”という姿勢を表現して作業に取り組んでいる。もうひとりは随分と年長で、終始神経質そうな目で溜まっていく缶を見詰め、一心に箱に詰める。そして、彼。<br />　彼は作業を続けながら、時々天井を仰いで見る。作業台から洩れる蛍光灯の光は天井に届くまでに広い暗闇に吸収されてしまう。彼は黙々と缶を詰め続ける。<br /><br />彼は会社を辞めた。入社３年目の退職。親会社１００％出資の中企業。それなりの仕事とそれなりの人間関係。それでいいと思っていた。<br />　しかし、ある日、後輩を殴った。<br />「われわれはこんなもんすよ。ねっ。課長」いつもの居酒屋で上司に向けた後輩の一言。<br />　反射的に殴っていた。確かに彼も酔っていた。<br />　だけど意識ははっきりとしていた。<br /><br />　明け方、天井付近の明かり取りから朝の弱い光が段々と差し込み、作業台から洩れる蛍光灯の弱い光と混ざり合い始めると、段々と広い部屋はその輪郭を浮かび上がらせる。丁度その頃、缶の流れが止まりバイト係の社員が現れる。「お疲れ」バイト係はそれだけ言い、そのまままたどこかへ消えてしまう。彼はバイト係に頭だけ下げ、作業台の回りの片付けをする。片付けを終え更衣室に向かう頃、部屋はすっかりその全容を現している。<br />　早朝、工場の門を出る。見上げる空は何処までも青い。彼は深呼吸を一回行う。<br /><br />「辞めるって、お前どうするつもりなの。式までもう何ヶ月もないんだろ」辞表を出すと上司はそう言った。<br />「結婚は少し先に延ばします」と彼。<br />「彼女は何て言ってる」<br />「納得してます」そうとだけ彼は答えた。<br /><br />　部屋に帰ると彼はカーテンを開き窓を全開にする。部屋に朝の光が溢れ込むと、誰もいない夜の余韻はさっとどこかへ消えてしまう。それから彼はシャワーを浴びてビールのレギュラー缶を一缶飲んでベッドに潜り込む。そして、目が覚めると夕暮れ。<br />　しかし、その日、部屋には彼女がいた。きれいに片づけられた部屋。カーテンは既に開き、部屋は朝の光で溢れていた。<br />「おかえり」彼女は彼を見て微笑む。<br />「会社は」と彼。<br />「休み」彼の意外そうな顔を見て彼女はもう一度微笑むとそう言った。<br />「そう」<br />「シャワー浴びちゃって、ごはんの用意しとくから」<br /><br />　シャワーから上がるとテーブルには朝食が並んでいた。<br />　しかし彼はテーブルには着かずそのまま彼女をベッドへ誘い全裸にする。<br />　テーブルの上で朝食の湯気が朝の光をキラキラと反射させている。<br /><br />２．<br /><br />　目を覚ますと夕暮れ前だった。彼はベッドに腰掛け取り合えず煙草に火を点ける。片づいた部屋をゆっくり見回す。彼女はいなかった。テーブルの上はきれいに片付きその隅に招待状のようなものが置かれていた。彼はそれを手に取る。<br /><br />　　　　　　　　　記<br /><br />　　日時　平成○年○月○日　日曜日<br />　　　　　　　　挙　式　午前　十時<br />　　　　　　　　披露宴　午前十一時<br />　　会場　○○○○ホテル　○○の間<br /><br />　招待状のようなものは招待状だった。元同僚の結婚式。招待状をテーブルに戻し、時計を見る。銭湯が開くのには少し早いが、早過ぎるといった時間でもない。彼は洗濯物の詰まった袋を持って部屋を出た。<br /><br />　アパートから駅へ住宅地を抜け四車線道路を渡る。<br />駅前まで続く商店街。途中で商店街を折れるとまた住宅地となる。細く入り組んだ道。一角の銭湯。銭湯横のコインランドリー。中に人影はない。扉を引く。すると乾燥機のドラムの回る音が響き出した。<br />　空いている洗濯機を探し洗い物を放り込みコインを入れる。<br />　備付けの椅子に腰掛け、隅に積まれた雑誌から適当に一冊選び、手に取る。<br />　週刊誌のグラビアページをパラパラと捲る。<br />　数ページ捲った所で、彼の手は止まった。<br />『一度お願いしたいOL』<br />　真っ直ぐ前方に投げ出された長い脚、ぴったりと揃えられた両脚の交わりで小さく盛り上がった陰毛、腰から贅肉のない腹。過不足のない胸は、両腕を後方について身体を支えているためか、実際以上に強調されている。背けられた顔の僅かに覗く口元。<br />　紛れもなく彼女だった。<br /><br />３．<br /><br />企業会計原則の第一、一般原則の六はこうだ。<br />企業会計は、企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない。<br />保守主義の原則と呼ばれるものだ。<br /><br />　会社を辞めて直ぐ彼は勉強を始めた。公認会計士。高難易度の専門的で実際的な国家資格。この半年、週の前半を工場でのバイトにあて、後半は会計学校に通った。資格取得まで最短２年。監査法人に就職して３年間の業務補助または実務従事。その後最終試験をパスすれば公認会計士として登録出来る。道のりは長い。しかしそれだけの価値はある。<br /><br />　銭湯には誰もいないようだった。彼は番台に料金を置くと、使い捨ての石鹸、シャンプー、リンス、それから安全剃刀を買った。脱衣箱の列の中から適当な位置の脱衣箱を選び彼は着ている物を脱いだ順に入れていく。<br />　トランクス一枚になった時、携帯電話が鳴り始めた。電話は招待状の元同僚からだった。彼は少しのあいだ携帯電話の画面を眺め、通話ボタンを押す。<br />「久しぶり。このくらいの時間じゃないとつながらないって彼女から聞いたから」と元同僚。<br />「久しぶり」と彼。<br />「招待状届いたでしょ」<br />「届いてた」<br />「どう？」<br />「行けないって伝えてもらったつもりだったけど」<br />「彼女からはそう聞いたけど、やっぱりふたり揃って来て貰いたくて。我々は同期なんだし」<br />「元はね」<br />「元だけど、同期でしょ。二次会は４人でよく行ったあの店。憶えてるでしょ」<br />「社内恋愛で結ばれるふたりの結婚式に会社を辞めた人間が行けると思う」<br />「来れない？」<br />「普通、行かない」<br />「彼女はふたりで来たいふうだけど」<br />「･･････」<br />「どう？」と元同僚。<br />「考えてみるよ」<br />「いい返事まってるよ。まだ仕事中だらか。じゃあまた」<br />「ああ」電話は切られた。彼は携帯を閉じると脱衣箱に置いた。<br /><br />　一番風呂かと思って入った浴場には先客がいた。湯気の立ちこめた浴場の湯船の縁に老人がひとり腰掛けていた。彼が浴場に入ると老人は湯気の向こうで彼に少し顔を向けた。<br />　彼は身体を流し湯船に浸かる。両手で湯をすくい顔を拭う。浴場に濃く漂う白い湯気。冷えた雫が天井から彼の頭に落ちる。天井付近の全開にされた換気窓。換気窓から湯気は外へ外へと流れ出ている。彼はもう一度顔を拭うとゆっくりと息を吐き出した。<br /><br />　銭湯を出るとコインランドリーに寄って洗濯物を乾燥機から袋に移す。<br />それから、簡易テーブルの上で週刊誌を開いた。グラビアの彼女を眺める。やはり、彼女の身体だった。彼はページを閉じ、週刊誌を元の場所に戻す。<br /><br />　コインランドリーを出ると、夕暮れ時の住宅地に立ちこめる夕餉の雰囲気の中、彼は、ゆっくりと、部屋へ歩いた。<br /><br />４．<br /><br />　部屋に帰りドアを開くと、片付いた１ＤＫは夕暮れに沈んでいた。<br />　所定の位置に洗濯物の袋を置くと、一瞬、そこに夕陽の微塵な輝きが胞子となって舞い上がった。<br />　部屋中。あらゆるものが微塵な胞子を纏い柔らかに膨らんでいた。<br />　ゆっくりとベッドに腰を下ろす。彼の回りで夕陽の胞子が舞い上る。<br />　テレビとレコーダー、パソコンとプリンター、本棚と参考書、テーブルと招待状。<br />沈黙していた。静寂があらゆるモノとモノとの関係を分断し続けていた。<br />　彼は立ち上がりベランダに出る。<br /><br />　夕暮れの世界。<br /><br />　そこで彼は彼女を発見する。アパートまでの住宅地の道を彼女はこちらに向かって真っ直ぐに歩いてくる。彼女はベランダの彼に気付くと立ち止まり手を振る。<br />　彼は部屋を振り返る。<br />　彼はむかし読んだこんな言葉を思い出した。<br /><br />黄昏<br />沈んでゆく陽かりのなかで<br />何もかも<br />誰も彼も<br />静かに輝き<br />そして、静かに消えてゆく<br /><br />５．<br /><br />　彼はベランダの手摺りにもたれかかると彼女に手を振った。
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<item rdf:about="http://denkimimizu.seesaa.net/article/58407012.html">
<title>少年少女 Got Short Dance</title>
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<description> 【5】[キョウ - 世界の向こうで混ざって溶けろ - ]「飛びそうだった？」 暗くなった街を野音のある美鷹駅へと向かう快速の、シートの端に沈むヒメはそっと言った。「飛びたそうだった。てか落ちそうだったよ、ヒメ揺れてた」 ヒメの横でスティールパイプに凭れて立っている僕は、街の灯が流れていく反対側の窓に浮かぶヒメに答えた。「幽霊って寂しいね。私、強い方だと思ってたの。小さい頃から両親は殆ど家に居なくて独りでいた。母に甘えると『子供みたいな事しないで』って何度も怒られたの。父も母...</description>
<dc:subject>少年少女Got Short Dance</dc:subject>
<dc:creator>村松恒平</dc:creator>
<dc:date>2007-10-02T15:40:22+09:00</dc:date>
<content:encoded><![CDATA[
 	<strong>【5】[キョウ - 世界の向こうで混ざって溶けろ - ]</strong><br /><br />「飛びそうだった？」<br />　暗くなった街を野音のある美鷹駅へと向かう快速の、シートの端に沈むヒメはそっと言った。<br />「飛びたそうだった。てか落ちそうだったよ、ヒメ揺れてた」<br />　ヒメの横でスティールパイプに凭れて立っている僕は、街の灯が流れていく反対側の窓に浮かぶヒメに答えた。<br /><br />「幽霊って寂しいね。私、強い方だと思ってたの。小さい頃から両親は殆ど家に居なくて独りでいた。母に甘えると『子供みたいな事しないで』って何度も怒られたの。父も母も子供の私に大人の対応を要求した。嫌われているのよ私。６歳で習わせられた日本舞踊とピアノは、1日も休まずに続けてる。これ以上嫌われたくないから。…あれ、なんでこんな事話してんだろ？」<br /><br />　僕を見上げたヒメの目は溢れそうな涙で揺れていた。僕は静明川の水に濡れてしまったハンカチを渡した。<br />「ありがとう」<br />　呟いた途端に揺らぎが一気に溢れる。<br />　溢れ流れる涙をハンカチに受け止めながら、仕舞っていたモノを吐き出す様にヒメは話し始めた。<br /><br />「高１で同じクラスになった紗英とは何でも話せる仲になったの。誰かに必要とされる感覚を初めて感じた。朝、家を出て学校に行くのが楽しかった。2年は別のクラスになったけれど、変わらず一緒にいた。ずっと何十年たっても友達だと思ってた。でも3年の始業式から紗英は私を幽霊にしたの。クラスの皆が廊下、トイレ、裏庭、至る所で私をイジメた。ネットの掲示板には「やらせます」って私の写真と携帯番号もアップされたの」<br />「それって何か引き金はあるの？」<br />「…多分、紗英の彼氏を私がふったからだと思う」<br />「ん？彼氏をとったのなら解るけれど」<br />「判らないけれど、春休みに携帯で告られて、その次の日に死ねって匿名メールが届いたのね」　<br />「ふーん、そいつがサエちゃんに何かしたってことか」<br />「…多分、でも紗英に確認出来る状態じゃないから」<br />　涙はずっとハンカチに流れている。止まる様子のない涙が静明川と混ざり合う。もう静明川よりもヒメの涙の方が多いだろう。<br /><br />「世界は広いよ、ヒメ。でもオレ達に見える世界はとても小さいんだ。遥か彼方に見える地平線も、実はたった5キロ先なんだ。オレ達には半径5キロしか見えていない。もう見えないさっきの夕陽も、今頃はモスクワや北京の空を赤く染めていて、それを眺めている人が沢山いるだろう。1時間前迄のヒメの世界にオレは居なかった。でもオレ達は今、未だ見えない野音に向かってる。それは心が気持ち良くなるモノを探しに行くって事だ。意識を変えれば世界は何処迄も広がっていくんだよ。見えない処に大切なモノがある。大丈夫、君は独りじゃない」<br /><br />　そうなんだ、大切なモノはいつも見えない。でもこの半径5キロの世界の向こうには、沢山の見えないモノが散らばっている。生まれてきた事を後悔する程の悲しみも、死にそうな程笑える楽しみも。<br /><br />「うーん、何だか本当に小さい世界の中で悩んでる気がしてきた。キョウ、ありがと。学校に行くのは嫌だけど、もう橋の欄干には立たないと思うよ」<br />　泣き笑いで言ったヒメは、ポケットから赤い飴玉を僕に差し出した。<br />「ありがと、苺？」<br />　口に入れると甘ったるい味が広がった。ヒメは飴玉を口に入れるとすぐに噛み砕いた。<br />「ずっと思ってたんだけどさ、早くね？噛むの」<br />「これは噛み砕くモノなの！頭蓋骨に響く音は他では出ない音なんだから。色々試した結果この苺飴が一番良い音するの。やってごらん」<br />「飴玉ジャンキー、ヒメもかなり変人だな。フィフスと合うかもね」<br />「そうなの？会うの楽しみになってきた」　<br /><br />　ポケットで鳴った着メロが、車輪の騒音に支配されてた乗客の疎らな車内に響いた。<br /><br />「Fly Me To The Moon、フィフスね」<br />「知ってんだコレ。ハロウ、…電車、…居なさそうだ、…で、いつもの様にマナー違反させて迄言いたい事って？…あぁ、行ってから考えようかと…そう、じゃ男女2枚頼むよ、正面ゲートで…」<br />「何？」<br />「電車で携帯使うなって怒られた。ヒメこの曲弾ける？」<br />「フィフスってちゃんとした事言うのね、話を続けるのが不思議だけど。弾けるよ、ジャズもたまに弾くの」<br />「まじ！じゃ今度合わせようよ、バンドやってんよ、フィフスと」<br />「バンド！Hysteric Work The OrangeってバンドをTVで観てから興味があるの！コードくらいならギターも弾けるよ私｣<br />「ああ、ヒステリック出るから[Groove Tribe 2008]のチケット買ったんだ。てかギター弾きたいの？」<br /><br />　電車が大きく揺れた。駅手前のポイントを通過してるらしい。美鷹駅まできたみたいだ。扉が開くと、８月の暑さと車内ファンで殆どシャツの乾いた僕と、溢れる涙は静明川に溶けてすっかり消えたヒメは、並んでホームに降りた。<br />　<br />　苺飴は最後迄噛み砕かないことにした。甘ったるいけれどゆっくりと溶かしていこう。もうすぐ見える野音迄は、この甘さに浸っていたい気分なんだ。
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<item rdf:about="http://denkimimizu.seesaa.net/article/55397839.html">
<title>夜の屋上に佇んで</title>
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<description> 屋上は静かだった。空には分厚く雲が重なり合い、月の光を微塵も下には零さない。マンション下の駐車場で整列した十数台の自動車。駐車場を挟んだ正面の高い木立。繁った木々の葉。その向こうに住宅街が続く。彼は耳を澄ます。すると一面に、虫の鳴き声が溢れだした。 四階建て分譲マンション。３ＬＤＫの部屋。妻と娘、そして彼。それなりの仕事とそれなりの人間関係。 バス停まで数分歩き、バスで駅まで１０分足らず。急行の停車駅になっている駅のホームは混雑してはいるけれど、ぎっしりという程でもない。毎...</description>
<dc:subject>その日とそのほかの日</dc:subject>
<dc:creator>村松恒平</dc:creator>
<dc:date>2007-09-15T02:07:40+09:00</dc:date>
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　屋上は静かだった。空には分厚く雲が重なり合い、月の光を微塵も下には零さない。マンション下の駐車場で整列した十数台の自動車。駐車場を挟んだ正面の高い木立。繁った木々の葉。その向こうに住宅街が続く。彼は耳を澄ます。すると一面に、虫の鳴き声が溢れだした。<br />　四階建て分譲マンション。３ＬＤＫの部屋。妻と娘、そして彼。それなりの仕事とそれなりの人間関係。<br />　バス停まで数分歩き、バスで駅まで１０分足らず。急行の停車駅になっている駅のホームは混雑してはいるけれど、ぎっしりという程でもない。毎朝、彼は急行には乗らず各駅停車に乗り込み文庫本を広げる。そのまま４０分。<br />　穏やかな虫の鳴き声の向こう、遠くから自動車の音が聞こえる。彼は駐車場を見下ろし止まった自動車に目を遣る。微かに香る甘い香り。キンモクセイ。<br /><br />「眠れませんか」彼は声の方を見た。彼の隣に男がひとり立っていた。<br />「どうも」彼がそう言うと男は少し微笑んだように見えた。<br />「どうです。一本」男はタバコとライターを彼に差し出す。<br />　彼は手を挙げてそれを断ると自分のタバコを出してそれに火を点けた。最後のタバコだった。彼は空のケースを捻って丸めズボンのポケットに押し込む。<br />「全然だめですか」男は携帯灰皿の蓋を開け手摺りの上に置いた。<br />「そうですね」彼も自分の灰皿を手摺りに置いた。<br />「私もだめです」と男。<br />　男はタバコをふかす。彼もタバコをふかす。<br />　真夜中、マンションの屋上に灯るふたつの赤く小さな明かり。<br />「暗いですね」と男。<br />「暗いです」でも、しっくりと収まっている。と彼は思う。<br />　<br />「家族の方はみんなやすまれましたか」<br />「ええ、随分前に」<br />「うちも眠ってます。お子さんはひとりでしたっけ」<br />「ええ、娘がひとりです」と彼。男は三十前後で彼と同じ位の年齢だった。もしかすると二つか三つ男の方が年上かも知れない。男とここでこうして話すのは何度目だろう。夜中の屋上に現れる住人はほとんどいない。風に当たるにしてもタバコを吸うにしても、わざわざやって来るには夜中の屋上は少々暗すぎる。<br />「うちはまだです」男は新しいタバコに火を点けるとそう言った。<br />　彼は半分程残ったタバコを大きく吸い込んだ。吐き出した煙は彼の目の前で広がりあっさりと消えていった。<br />「子供です。そろそろと思ってもう三年になります。でもまだ出来ません。一度堕ろしてしまったのが良くなかったのかも知れません」男は独り言のようにそう言った。<br />「奥さんはおいくつですか」彼はそう言うとすぐに余計な事を聞いてしまったなと思う。<br />「僕と同い年です」と男。<br /><br />　昨年の秋、彼は短い小説を何編か書いた。家族の寝静まった後、ダイニングテーブルにノートパソコンを置き、毎晩それに向かった。開け放った窓から流れ込む静かな虫の鳴き声の中、彼は独りそれを試みた。僕は、で始まる小説。彼は何かすべきだと思った。とにかく何かすべきだ。と。そして彼は小説を書いた。僕は、で始まる小説。<br /><br />　僕は、剥がれかけている。しかし、何から剥がれ掛けているのか分からないし、そもそも剥がれるといっても、僕が感じているのは朧気な剥がれ感のようなものであって、具体的な何かから剥がれ掛けているというのでもなかった。それでも僕は剥がれ掛けている。しかし剥がれ切れはしない。僕は、誰もいないこの部屋で机に向かいＰＣのキーボードを叩く。うまくするとこれは剥がれ掛けたカサブタを剥がし切る作業になるかも知れない。<br /><br />「すみません。余計なことまでしゃべってしまいました」<br /><br />　今何時なんだろう。相変わらず遠くから自動車の音が間欠的に聞こえてくる。そして、間髪的な虫の声。彼は駐車場の向こうの木立に視線を注ぐ、しっかりとした樹幹、伸びた樹枝、そこで一枚一枚樹葉が絡み合う。駐車場に視線を移す。アスファルト上で整列した自動車。彼は一回目を閉じ、開くと煙草を一回大きく吸い込み、灰皿にそれを押しつけて消した。彼は試しに男と男の奥さんについて考えてみようとしたけれど、それは無駄なことのような気がした。<br /><br />「少しは眠くなってきましたか？」と男。<br />「だめですね」と彼。<br />「それでも明日は仕事です」<br />「･･････」<br />「今から眠っても明日はきつそうです」男は少し苛ついた声でそう言うと、大きく一回タバコを吸い込んだ。男のタバコの赤い光が一際大きくなった。<br /><br />　彼は目を閉じ、開く。<br />　風景が変る。<br />　透過性皆無の黒でコーティングされたツルリとした風景。<br />　それが彼の前に真っ直ぐ伸びている。<br />　どこまでもどこまでも果てしなく伸びている。<br />　ただ、そこに、ぽっかりと開いてしまったトンネルのように。<br />　彼はもう一度目を閉じ、開く。<br />　目の前にはいつもの真夜中の風景。<br />　<br />「一本いただけますか」と彼。<br />　しかし、もうそこには誰もいなかった。
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<item rdf:about="http://denkimimizu.seesaa.net/article/49245540.html">
<title>ある夜とそこにある隙間</title>
<link>http://denkimimizu.seesaa.net/article/49245540.html</link>
<description> 砂利敷きの私道に車を乗り入れると、傾ききった陽の中で砂埃が膨れ上がった。この時間、アパートの駐車場にはまだ彼女の車の他車はない。彼女はエンジンを切るとハンドルに両手を置いて、一回大きく息を吐いた。車内を満たし始めた薄闇が僅かに震る。彼女はもう一度短く息を吐くと、助手席に置いたスーパーの袋とバッグを取り車を出た。 部屋の前でご近所の主婦とすれ違う。軽く会釈だけして、部屋の鍵を明ける。部屋の中からテレビアニメの音が漂い出る。 ただいま。スーパーの袋とバッグをキッチンのテーブルに...</description>
<dc:subject>その日とそのほかの日</dc:subject>
<dc:creator>村松恒平</dc:creator>
<dc:date>2007-07-26T09:54:35+09:00</dc:date>
<content:encoded><![CDATA[
　砂利敷きの私道に車を乗り入れると、傾ききった陽の中で砂埃が膨れ上がった。この時間、アパートの駐車場にはまだ彼女の車の他車はない。彼女はエンジンを切るとハンドルに両手を置いて、一回大きく息を吐いた。車内を満たし始めた薄闇が僅かに震る。彼女はもう一度短く息を吐くと、助手席に置いたスーパーの袋とバッグを取り車を出た。<br />　部屋の前でご近所の主婦とすれ違う。軽く会釈だけして、部屋の鍵を明ける。部屋の中からテレビアニメの音が漂い出る。<br />　ただいま。スーパーの袋とバッグをキッチンのテーブルに置き、子供たちのいる部屋を横切りベランダに出る。夜寸前の青い闇が辺りを満たしている。昨日の夜干した洗濯物を取り入れる。やはりこの時間では少し湿ってしまう。彼女は洗濯物を抱えて部屋へ入ると、カーテンを引いた。<br />　キッチンのテーブルに戻りタバコに火を点ける。そして隣の部屋の二人の子供を眺める。小学校５年生の長男はテレビに見入っている。小学校２年生の長女はあまりこのアニメには興味がないらしく、人形で遊んでいる。<br />「おかあさん、お父さんから電話あったよ」長男がテレビから目を離さず言った。<br />「お父さん、元気なんだって」と長女。<br />　部屋には夜の闇が漂い始めている。<br />「夜、おかあさんに電話するって」と長男。長女がうなずく。<br />「そう」短く答えてタバコを消す。<br />「電気つけなさい。目悪くなるよ」バッグから携帯を取り出し、着信を確認する。何個か目の番号で手を止めしばらくその番号を眺める。それから携帯を置き、新しいタバコに火を点ける。テーブルに置いたばかりの携帯が鳴り始める。<br />「もしもし」…………「どうしたの」…………「今帰ってこれから子供たちに夕飯をつくるところ」…………「えっ」…………「無理」…………「元気ないよ」…………「うるさいな」…………「だから無理だって」…………　電話が鳴り始めた。すかさず長女が電話を取った。「はい…………おとうさん…………おかあさん今電話中…………うん、またね」長女はそれだけ話すとあっさりと電話を置いた。「電話みたいだから」…………「約束はできないよ」…………「じゃあ」彼女は携帯を切った。タバコを灰皿に押し付け、冷蔵庫から缶ビールを取りだす。<br /><br />　夕食を終え洗い物をしていると、長女が横に立って、父親が電話をしてきた理由を聞きたがった。彼女は洗い物をさっと終わらせ、長女と風呂に入った。髪を洗って、トリートメントもしてやる。トリートメントした長女の髪をタオルでくるみ、身体を流す。湯船につかった長女は頭をくるんだタオルが解けないように、じぃーとしている。髪を洗い身体を洗い長女の横につかる。長男が一緒にお風呂に入らなくなったのは何時頃からだろう。と彼女は思う。<br />　風呂を出てドライアーを掛け終わると、長女は長男のところへ行き髪を触らせた。「しっとりしてる」と長女。「うん」と長男。「トリートメントしてもらったの」長女はそう言って彼女を見た。「やったげようか」彼女は長男に言った。「遠慮しとくよ」と長男。その口調は父親そっくりだった。<br /><br />　ふたりが寝てしまうと、キッチンテーブルの椅子を引き、持ちかえった資料を広げる。資料に目を通し、マーキングし、書きこみをする。そうしている時が一番落ち着けるように彼女には思えた。頭を空っぽにしてただ資料の文字だけを追う。いくつかの理解出来ない個所にアンダーラインを引き、グラフはひとつひとつの数字を照らし合わせじっくりと確認する。時間は過ぎる。時間はしっかりと過ぎている。ひと通り資料に目を通すと彼女はマーカーペンを置いた。缶ビールをもう一缶開けひと息で半分ほど空けた。<br />　照明を消した隣の部屋でテレビの画面が浮かんでいる。<br />　明日も仕事だ。明日は早く起きて、きちんと朝食を作ろう。味噌汁はお麩にして、目玉焼きと、やさいはレタスとトマト。ドレッシングはお酢とオリーブオイルで作って、それから、ソーセージを焼こう。それから牛乳は欠かせない。デザートはヨーグルトにはつみつをかけよう。オレンジを絞ってジュースも作ろう。<br />　彼女は缶ビールの残りをひと息で空けた。<br />　彼女はタバコに火を点ける。<br />　彼女はテーブルの上の携帯を見つめる。<br />　彼女はテレビのヴォリュームを上げる。<br />「遠慮しとくよ」父親そっくりの長男の声。<br />　涙が溢れてきた。<br />　泣きたくない。と彼女は思う。それでも、涙は次から次に溢れ出る。<br />　その時、　洗濯機が急激な音を立てて止まり、終了のアラームを鳴らした。<br />　彼女はタバコを置き、ティッシュペーパーを抜くと、鼻をかみ、涙を拭った。<br />　それから、ゆっくりとテーブルから立ち上がる。
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<item rdf:about="http://denkimimizu.seesaa.net/article/43000246.html">
<title>浮世絵と少年（２）</title>
<link>http://denkimimizu.seesaa.net/article/43000246.html</link>
<description> 便器のパイプの奥から極彩色の紙のかたまりが出てきた。修理業者がひとつひとつ拡げていくと、それは１４枚あった。そのすべてが和紙に画かれた浮世絵春画だった。 「見て下さい。これがパイプ詰まりの原因ですよ。いまどき珍しいですね」 業者は何が起きているのかわかっていた。丹念に眺め、つぶやいた。 「こんな立派な絵を見ながらオナニーしたら最高だよなぁ」 百合子が春画を見ていると、なぜか春画の画面に恋人の顔が現れた。恋人は春画が好きで四十八手という手の込んだ性のテクニックがとても上手だっ...</description>
<dc:subject>浮世絵と少年</dc:subject>
<dc:creator>村松恒平</dc:creator>
<dc:date>2007-05-27T02:52:52+09:00</dc:date>
<content:encoded><![CDATA[
　便器のパイプの奥から極彩色の紙のかたまりが出てきた。修理業者がひとつひとつ拡げていくと、それは１４枚あった。そのすべてが和紙に画かれた浮世絵春画だった。<br />　「見て下さい。これがパイプ詰まりの原因ですよ。いまどき珍しいですね」<br />　業者は何が起きているのかわかっていた。丹念に眺め、つぶやいた。<br />　「こんな立派な絵を見ながらオナニーしたら最高だよなぁ」<br />　百合子が春画を見ていると、なぜか春画の画面に恋人の顔が現れた。恋人は春画が好きで四十八手という手の込んだ性のテクニックがとても上手だった。今、ニューヨークで舞台芸術の修業をしている。懐かしんでいると、ふと恋人とリュウの顔が重なって見えた。二人は自分好みのタイプだと気づく。百合子は思わず笑ってしまった。<br /><br />　百合子は理事長室でリュウの浮世絵のいきさつを話した。華子はそれを聞いてふっふっと含み笑いをした。<br />　笑った理由は百合子とは正反対だった。それは男性と浮世絵との深い因縁を知っているからこその微苦笑だった。<br />　華子は１７年前。新婚旅行でシンガポールへ行った夜、夫の誠が華子を抱かなかった苦い経験がある。<br />　２日目の夜もバスルームに入ったまま夫がなかなか出てこない。不審に思った華子が見に行くと、中で浮世絵の春画を前にして、オナニーに必死になっている姿を見てしまった。<br />　夫は汗にまみれ、疲労困憊の様子で、華子を見て吃驚して言い訳を言った。<br />　「君のために何とかしようと頑張っているのだがね、なかなかうまくいかんのだよ」<br />　華子はこの時知ったことだが、夫は浮世絵春画のマニアだったのだ。医学生の頃、患者の回復力を高める方法として浮世絵を研究したとき、逆に虜になってしまったのだ。初夜に失敗し、２日目は今度こそと、春画の助けを借りようとしたのだった。往々、麻酔科の先生が麻薬中毒になると同じように、夫も職業上の罠に陥った男のひとりであったのだ。<br />　<br />　苦笑いをやめ、気を取りなおした華子は、医者の立場を取り戻し、ノートを取り出して予診を始めた。<br />　「男と浮世絵はよくある話よ、それよりもリュウは父親の死に際してどんな様子だったの」<br />　百合子は答えた。<br />　「あれだけ可愛がってくれた父親ですもの。ただでさえショックなのに、兄の最後が畳の上じゃなかったこともあって、リュウは相当こたえたと思うわ、ところが本人は意外に落ち着いていたの」<br />　百合子はその時のことを思い浮かべた。<br />　警察からの電話があったのは１月１０日の未明であった。兄が中川運河に浮かんでいたという。引き揚げたが残念ながら溺死を確認した、検視が済んだ為すぐ名古屋港警察署へ来てほしいというものであった。<br />　百合子が駆けつけると死体安置所の中でひとり、兄の死骸に取りすがったリュウがいた。現れた百合子に気がつかない。気がついたのは百合子が遺体に触るなり、　「なんて冷たいの」と思わず大声を上げたときだった。リュウが近づいてきて声をかけた。<br />　「父はこの正月、肝臓がんで酒が飲めない筈なのに、無理をして大量の酒を飲んでいました。父は覚悟していたと思います」<br />　リュウは落ち着いて話しかけのだ。百合子の悲しみを和らげるかのように。百合子はリュウこそ一番悲しい筈、まして入試の勉強の大変な時なのにと、自分より相手を気遣うリュウの優しさに心を打たれ、一段と涙が湧いてきたことを覚えている。<br />　華子はそれを聞いて、<br />　「そうなの、落ち着いて優しいリュウだったのね」<br />　と予診ノートに記入し、書きながら訊ねてゆく。<br />　「その他、リュウの行動で気づいたことはない」<br />　百合子は親族会議の時、優しいリュウが意外にも抵抗したことを思い出した。<br />　百合子は親族会議のいきさつを語った。<br />　大垣の親戚がリュウを引き取ることを申し出た時、リュウは返事をしなかった。　見ると顔面が蒼白になっていた。百合子は見るに見かねて、友達との別れが辛いようだから、しばらく転校を見合わせましょうと、その場を取り繕った。百合子は後日、掃除の小母さんにリュウの状況を聞いて見た。葬儀のあと、リュウは学校へはきちんと通っているらしい。しかし掃除の小母さんの勘では、リュウは学校に好きな女生徒がいるらしい。<br />　華子はそれを聞いて不審に思った。<br />「好きな女生徒がいるのに、どうして不登校になったのかしら」
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<item rdf:about="http://denkimimizu.seesaa.net/article/41406404.html">
<title>妄想だけは電車の中ですくすく育つ 駆込み乗車 その３</title>
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<description> ご存知の様に美佐子さんは新婚六ヶ月だ。新妻だ。その日は、朝から誕生日の料理を作っていた。白いエプロンにミニスカートが良く似合っていて、すらりと伸びた足がとてもまぶしい。 メイン料理は鶏の丸焼きだ。チャングムがテレビで作っていたもので、鳥のお腹に朝鮮人参やしいたけ、銀杏、香辛料といったものを詰め込んで、竈の土でまわりを固めて焼くと言う手の込んだ料理なのだ。レンガの様に固くなった周りをコンコンと軽く叩いて割ると、中から香ばしい匂いと共にうまみエキスたっぷりの鶏が現れるのだ。見た...</description>
<dc:subject>妄想竹は電車の中ですくすく育つ</dc:subject>
<dc:creator>村松恒平</dc:creator>
<dc:date>2007-05-11T00:40:15+09:00</dc:date>
<content:encoded><![CDATA[
　ご存知の様に美佐子さんは新婚六ヶ月だ。新妻だ。その日は、朝から誕生日の料理を作っていた。白いエプロンにミニスカートが良く似合っていて、すらりと伸びた足がとてもまぶしい。<br />　メイン料理は鶏の丸焼きだ。チャングムがテレビで作っていたもので、鳥のお腹に朝鮮人参やしいたけ、銀杏、香辛料といったものを詰め込んで、竈の土でまわりを固めて焼くと言う手の込んだ料理なのだ。レンガの様に固くなった周りをコンコンと軽く叩いて割ると、中から香ばしい匂いと共にうまみエキスたっぷりの鶏が現れるのだ。見た目も驚かすし、またその味が格別なのである。美佐子さんは特にこれを得意にしていて、世界中でチャングムの次に上手いと自負している料理だった。<br /><br />　１５：００のことである。美佐子さんの中に何かが走った。料理の手を止めて周りを見まわしたが特に何もなかった。電磁調理器の上では白い鍋の中でシチューがぐつぐつと煮えていた。でも、確かに何かを感じたのである。ちくりと心を挿されたようなその感覚は昔味わったものでもあった。心に穿たれた小さな穴がだんだん広がってゆく感じ・・・　何だったかしら、キッチンの窓から外を見た。白い雲が西に流れてゆく。。<br />　そうだ、おばあちゃんが死んだ時がこうだった・・・「お母さん、おばあちゃんどうかしたの？」「そう、おばあちゃんね、足を滑らせて用水路にはまってそのまま流れちゃったの。何で知ってるの？美佐子は鋭いんだから」。ほんのさっきまで、暖かく抱いてくれていたおばあちゃんが、今は用水路をユラユラと流れている。流しに吸い込まれていく水の音がジャボジャボと妙に寂しく聞こえていた。<br />そうか・・・「あの人死んじゃったのね・・・」あの時と一緒。もう誰も私を抱いてくれないんだ。「一郎さん」　声にだして呼んでみるけど、誰も答えてくれない。<br />　美佐子さんは、竈の土で固めた鳥の固まりを二つに割るとラップに包んで冷蔵庫にしまった。<br />「一人になったんだから、こんなに沢山いらないんだわ。」<br />紅茶をカップに注ぐと、テーブルに座った。目の前に主のいない肘掛椅子が見えた、「ここには、もう誰も座らないのね・・・今日は誕生日だけど一人でご飯食べなくっちゃ。あ！ネッカチーフも、もう、もらえないんだ。」<br /><br />紅茶のカップの縁を指でなぞる。なぞる。指がこすれてうっすらと血がにじんでいる。何かが一粒ほほを伝わっておちた。<br />「あれ？何で涙が出ているのかしら」美佐子さんは不思議そうにほほをぬぐった。そうなのです、彼らは人が死んだからと言って泣く人たちじゃなかったはずなんです・・・<br />もしかして、死んでないの？もしかして・・もう一度何かが全身を駆け巡った。<br />　　　　　　　　　　　４<br />　「あの人は死んでないんだわ！」美佐子さんは、腰まで汚水に浸かりながら処理場の中を走り回っていた。<br />　処理場とは市外を縦横に流れている水路が集まっている所で、流れ着いたものを文字通り処理する場所なのだ。一般のゴミや汚物なども流れて来るがやはり多いのは死体だ。まるままの人間、ジグソーパズルのピースのような肉片など形状は様々だがゆっくりと集まってきている。水路に投げ込まれた全てのものがここに集められ、腐ったり悪臭を放つ前に処理されているのである。<br /><br />　処理場で、ある特殊な方法で製造された精製水は　扶養水と言う名前で上水道に混ぜられ、固形物は肥料として使用されている。彼らが死と言うものを「お茶漬け」の様にあっさりと受け入れているのは、彼らが毎日扶養水という死体を処理した水を飲んで、体の中に”死”が溶け込んでしまっているからじゃないかと言う人もいる。<br /><br />　それにしても、ざぶざぶと腰まで汚水に使って肉片を押しのけては、洋一さんを探している美佐子さんの様子は彼らの常識から言えば尋常ではなかった。どうしたんだ美佐子さん？！<br />　「洋一さん、洋一さん」と叫びながら、肉片や汚物を取り除いていくと、その奥の方にまさにミキサーに挟まれようとしている、かすかに動いている物体を見つけた、もちろんそれは田中君だった。<br /><br />　美佐子さんの働きで、田中君は九死に一生を得た。彼らは自分たちが死に対して無頓着なのを知っていただけに、美佐子さんのこの執着は大変な評判となり、「時間的に有限でない愛が生まれたのか」「無限の思いの存在証明」と大騒ぎになった。<br />　もっとも、田中君は生きていたのだから「死んだものには無頓着でも、生きたものには執着する心は誰でも持っており、その大きさが特に大きかっただけなのだ」と言う興ざめな有識者の意見も多く聞かれた。<br />　復帰した田中君は相変わらずギリギリに出勤して電車に飛び乗ることはしょっちゅうだ。ただ最近は五回に一回は次の電車を待っているようになっているらしい。<br /><br />　ところで、病院のベットで意識が戻った田中君への美佐子さんの最初の言葉が「私のネッカチーフはどこ？」だったと言うことはさほど知られてはいない。<br /><br />おしまい
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<item rdf:about="http://denkimimizu.seesaa.net/article/40133617.html">
<title>少年少女 Got Short Dance</title>
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<description> 【4】[ドクタII -叫び、リミッター解除- ] 痛みに堪えながら立ち上がると、財布が浮かんでいました。「ドクタのでしょ、これ」 履き込まれた黒いドクターマーチン10ホール、両膝を結ぶベルトが長く垂れている赤いチェックのボンデージパンツ、赤糸でThree Step To Heavenと刺繍された継ぎ接ぎデザインの白いガーゼシャツを着た赤毛君が、鼻血を流して呻く黄色の顔を踏みながら財布を振っています。「ドクタ？そ、そう僕の、なんで赤毛君が…」「八王寺でドクタが落としたんだよ、...</description>
<dc:subject>少年少女Got Short Dance</dc:subject>
<dc:creator>村松恒平</dc:creator>
<dc:date>2007-04-26T23:46:07+09:00</dc:date>
<content:encoded><![CDATA[
 	<strong>【4】[ドクタII -叫び、リミッター解除- ]</strong><br />　痛みに堪えながら立ち上がると、財布が浮かんでいました。<br />「ドクタのでしょ、これ」<br />　履き込まれた黒いドクターマーチン10ホール、両膝を結ぶベルトが長く垂れている赤いチェックのボンデージパンツ、赤糸でThree Step To Heavenと刺繍された継ぎ接ぎデザインの白いガーゼシャツを着た赤毛君が、鼻血を流して呻く黄色の顔を踏みながら財布を振っています。<br />「ドクタ？そ、そう僕の、なんで赤毛君が…」<br />「八王寺でドクタが落としたんだよ、オレはフィフスね」<br />「あ、僕は泉野博士です」<br />　財布を受け取りながらお辞儀をすると背中や腰が痛みました。<br />「イズノヒロシ？イズミノタゴールハカセじゃないの？」<br />「ハカセじゃなくてヒロシです」<br />「そうなんだ」<br />「あの…もう、いいんじゃない？」<br />「そ？ドクタがいいなら」<br />　どうやら僕を本名で呼ぶ気は無いみたいです。僕が足下を指すとフィフスは黄色の顔から足を下ろしました。<br /><br />「お前が早くヤラせねぇから面倒になってんじゃんよ」<br />「はぁ？なんで紗英のせいになってんの、意味わかんないんだけど」<br />　テーブルで灰色と綺麗な顔が言い争っています。あの二人は車の中でもヤル、ヤラない、と言っていました。<br />「ユーレイの友達潰したらヤラせるっつったろ」<br />「バカじゃんあんた、タケルが情けなくやられたのとどういう関係があるわけ？」<br />　言葉が終わらない内に灰色はサエを殴りました。サエは吃驚した顔のまま止まっています。<br />「調子こくなよ、もう遊びは終わりだ。あのガキ片付けたら姦ってやるからな」<br />　髪を掴まれ乱暴に頭を振られると、灰色をコントロールして余裕に満ちていた綺麗な顔に恐怖が放ろがっていきました。<br />「あら！見ました奥さん、あの人女の子を」<br />　戯けた口調で言ったフィフスの顔は全然笑っていません。<br />「ねぇ、オレ達帰るけどどうする？」<br />　フィフスがサエに手を振りました。<br />「ああ？！なめてっと殺すぞガキ」<br />　サエを蹴り倒した灰色がこちらを睨みます。胸を蹴られ呼吸困難になったサエは床に蹲り喘いでいます。<br />「聞いた？殺すぞって」<br />　振り返ったフィフスが恥ずかしそうに笑いました。<br />「来た、殴られるよフィフス」<br />「彼は主張をしているんだよドクタ」<br />「抵抗せずに被害を最小限に抑えた方が良いよ」<br />「それって自己中。コミュニケートは言語だけではないよドクタ、ボディコンタクトも有効な手段だ」<br />　笑ったフィフスは突然弾かれた様に僕の横を転がり抜けました。<br />「てめぇも寝てろインドジン」<br />　消えたフィフスの後に現れた足は、続けて僕を蹴りつけました。僕は無抵抗に後ろに倒れましたが、頭が床に着く前に止まりました。両手で頭を支えてくれているフィフスが僕を覗き込みます。<br />「受け身とらないとマジ死んじゃうよ。ハイっ、この人の意思に触れてドクタ」<br />　フィフスは僕を立たせ、僕の肘を持って顔の前に腕を置きました。<br />「ぶっ殺す！」<br />　完全にキレた灰色が攻撃を開始。めちゃくちゃな連打に込められたフィフスへの怒りを僕は必死でガードします。<br />　終わる気配のない打撃に段々腹が立ってきました。<br />　…僕はなぜ我慢してるんだ？<br />「もう、いい加減にしろよ！」<br />　左脇腹に激痛が走った直後、無意識に僕は叫んでいました。<br />　その瞬間、右肘を引かれ後退した僕にシンクロして前に出たフィフスの左手が、灰色の拳の内側を滑り上がり、素早い捌きで手首に絡みました。<br />「女の子とドクタの気持ち受け取ってチョ」<br />　ノーモーションでフィフスの右足が側頭部に回し入ると、衝撃に痺れた脳を残す様に膝から崩れた灰色が、白目を剥いて失神しました。<br />「もう殻に閉じ篭っちゃダメだよ」<br />　僕の手を取ったフィフスが頬をプクッと膨らまします。<br />「な、なるべく努力するよ」<br />　こんなに殴られたのは誰の所為だと思いながらも、何故か清々しい気分の僕は繋いだ手をしっかり握りました。<br /><br />　フィフスに引かれて立ち上がると、車の陰から何かが転がって来ました。先端に火のついた長い紐が、紙テープをグルグルに巻いた小さな蹴鞠の様な玉から伸びています。<br />　ダイナマイト？！<br />　バタバタ走る音が聞こえ、太っちょが車の向こうのシャッターを上げて逃げていきました。<br />「あら、そういえばもう一人居たわね。奥さん伏せてらして」<br />　また真顔で戯けたフィフスは、ダッシュで拾った玉をオデッセイの跳ね上がった改造マフラーに突っ込んで、蹲っているサエに被さりました。<br />　直後、ボッと火の粉を散らしてマフラーから飛び出した火球が、割れた窓の向こうの空めざして斜めに駆けあがり、陽の落ちた夏空に金色の花を開きました。<br /><br />「観た二人とも？」<br />　尾を引いて落ちる火が完全に消えて煙が風に流れて行くのを見つめていたフィフスは、興奮気味にそう言うとポケットから携帯を出しました。<br />「ハロウ、キョウちゃん今何処？…花火見えた？オレ様だよん…凄いでしょ！そだ、ドクタ紹介するよ…さっき出逢った…野音？…わかった、スィーユー」<br />　携帯を切ったフィフスが嬉しそうに叫びます。<br />「速攻で野音に行くよドクタ！」
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<item rdf:about="http://denkimimizu.seesaa.net/article/38402669.html">
<title>浮世絵と少年（１）</title>
<link>http://denkimimizu.seesaa.net/article/38402669.html</link>
<description> 中部国際空港の近く、海岸に沿って南国風のエキゾチックな建物があった。看板は「医療法人愛仁会 千鳥ホーム」とあり、老人ホームであった。その屋上で、理事長の華子が海を眺めて佇んでいた。華子は精神神経科の専門医だが実際の診療はタッチしていない。 千鳥ホーム内に診療所はなく、応急の時は母校の後輩が嘱託医として対処していた。夫の誠も徳川時代から御典医の家系で、親から引き継いだ医院を開業している。しかし華子とは別居の状態だった。夫は老人ホームの経営に興味がなく、千鳥ホームの運営は名実と...</description>
<dc:subject>浮世絵と少年</dc:subject>
<dc:creator>村松恒平</dc:creator>
<dc:date>2007-04-11T02:00:00+09:00</dc:date>
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　中部国際空港の近く、海岸に沿って南国風のエキゾチックな建物があった。看板は「医療法人愛仁会　千鳥ホーム」とあり、老人ホームであった。<br />その屋上で、理事長の華子が海を眺めて佇んでいた。華子は精神神経科の専門医だが実際の診療はタッチしていない。<br /><br />　千鳥ホーム内に診療所はなく、応急の時は母校の後輩が嘱託医として対処していた。夫の誠も徳川時代から御典医の家系で、親から引き継いだ医院を開業している。しかし華子とは別居の状態だった。夫は老人ホームの経営に興味がなく、千鳥ホームの運営は名実ともに華子に任せていた。若い美人の理事長華子は人気を呼び、今や入居希望者は順番待ちという盛況ぶりで、他の老人ホームの経営者達から羨やましがられる存在となっていた。<br /><br />　華子は海を見て、いつものように新聞相談室の回答の想を練っていたのだ。東海地方のＴ新聞社の毎週土曜日の読者相談では、華子の愛と性に関する相談は、ずばりと回答して「小気味良い」と言われていたのだ。<br />　華子は携帯電話が鳴ったので見る。それは友人の百合子からの予期せぬ電話で、それも今、玄関に来ているという。<br />　百合子は高校時代からの友人で、名古屋在住の劇団の女優である。かつては大変な人気女優だった。今、劇団の幹部をしている。<br /><br />　それにしても約束もなしに訪れるとは珍しい。何かあると思った華子は急いで玄関に行く。玄関には一台の洒落た白い車が止まっていて、大きな黒い帽子をかぶった百合子が立っていた。百合子らしい奇抜な帽子だ。<br />　百合子は華子を見て、いつもの甘えたような声で話しかける。<br />　「華子、突然で悪いわ。朝からこの近くのデザイナーの別荘で打ち合わせがあって、今終わって帰り道なの。ここまで来たら顔を見せなきゃ悪いものね」<br />　と言う。相変わらずの調子の良さに華子は<br />　「ちょうど居て、良かったわ」<br />　と、苦笑しながら百合子の顔を見た。<br />　百合子は華子と同じ年だから４３歳になる。しかし、ふたりとも３０台後半と見られていた。ところが今日の百合子はなんとなく冴えない。華子は何か心配事があるのではないかと思い、人が集まるロビーではなく、自分の部屋、つまり理事長室に百合子を案内した。<br /><br />　百合子は、饒舌で有名である。今日も部屋に入るなり、椅子に座る間も惜しんで立ち話となる。暫く会わなかった為か、次々と話題が出て賑やかなやりとりとなった。<br />　秘書がコーヒーを運んできて二人はソファーに座った。コーヒーを一口すすった華子が、百合子に何気なく聞いた。<br />　「ところで、リュウはどうしている？」<br />　その言葉に、百合子は顔を曇らせた。<br />　「華子、聞いてくれる。私、リュウのことで相談があるの」<br />　華子は、百合子の訪問の目的がやっと分ってきた。しかしさりげなく、改めて年を聞く。<br />　「彼は今年、確か１７歳だったわね」<br />　「そう１７歳なの。それがね、急に高校へいかなくなったのよ」<br /><br />　リュウは百合子が産んだ子である。しかし独身女優という看板の手前、人には言えない事情のため、自分の子として公表できなかった。<br />　そのため実の兄である元宮泰一の子供として育てられていた。元宮泰一は住宅会社の営業社員だったが、入籍の相談には快く応じてくれた。それは養育費の代わりとして百合子が老後のために建てた、女子学生専用アパートの管理人の仕事を与えられたからである。<br />　しかし、収入が増えて仕事も前に比べ、はるかに楽になると、泰一の心の中には次第に怠け心がはびこっていった。いつしか朝から酒を飲むようになり、時々管理室で泥酔する始末となる。<br />　泰一の妻は、酒浸りの夫の姿に愛想をつかし去って行った。それからリュウと二人暮らしを続けた泰一も、昨年、肝臓がンで死亡した。この泰一のいきさつについては、おおよそ華子は聞いていた。<br />　リュウは、泰一が亡くなって一人で生活していた。アパートの管理の仕事は業者にまかせることにした。<br />　百合子は時々リュウの部屋を訪れ、叔母ということで甥の独身生活を見守っていたが、葬儀から半年ぐらい経った頃から、リュウは百合子を避けるようになった。　百合子が話かけても返事をしなくなり、なんとなくよそよそしい態度となる。<br />　そんな時、トイレが詰まり修理を依頼した際、その業者が詰まった物を見て驚いた。
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<title>世紀末の女王（マザー） 第五話</title>
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<description> 足を踏み込むたびに石くれは動き、砂岩質の石が砕ける。足に蹴られた砂利が体と共に斜面を落ちて行く。強靭な細い脚は、そんな中でも上体をしっかり支え、力強く移動を続ける。〝クソッ〟うめき声が思わず、山田博之の口から出る。祖父を諦められぬ気持ちが博之を発射台に向かわせ、式典会場に忍び込ませた。既に参列者は去り、閑散とした中で、焼け落ちた家の片付けがされていた。博之は気づかれぬように近づいていった。「ちょろいもんだ、遺品の出来上がり」、作業の者が発した言葉、焼けた灰へ骨片と祖父の認識...</description>
<dc:subject>世紀末の女王（マザー）</dc:subject>
<dc:creator>村松恒平</dc:creator>
<dc:date>2007-02-17T22:20:10+09:00</dc:date>
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　足を踏み込むたびに石くれは動き、砂岩質の石が砕ける。足に蹴られた砂利が体と共に斜面を落ちて行く。強靭な細い脚は、そんな中でも上体をしっかり支え、力強く移動を続ける。<br />〝クソッ〟うめき声が思わず、山田博之の口から出る。<br />祖父を諦められぬ気持ちが博之を発射台に向かわせ、式典会場に忍び込ませた。既に参列者は去り、閑散とした中で、焼け落ちた家の片付けがされていた。博之は気づかれぬように近づいていった。「ちょろいもんだ、遺品の出来上がり」、作業の者が発した言葉、焼けた灰へ骨片と祖父の認識票を投げ落とし混ぜていた所作が、博之の心にわだかまっていた違和感に明確な形を与えた。<br />〝全部嘘じゃないか〟博之は、ほの暗い大洞穴に向かい斜面を駆け下りて行く。<br />　<br />　斜面を下り終え息を整える。湿った空気が幾分か喉を潤す。苔があちらこちらに群生し、それらは蛍光を発し薄明の世界が広がっていた。そんな世界を切り裂くように数箇所の裂け目から薄日が差し込んで来る。ここは自然に出来た大洞穴であった。幅数百ｍ、奥行き数kmの大きさがあり、さらに八方に細い洞穴が広がっていたが、全体的に砂岩質が多く、地盤の脆さから開発は断念されていた。科学者はこの地に苔やキノコの菌糸を蒔き、幾種類かの昆虫と動物を放っていた。放牧した動物を誘引源で引き寄せ、集まった動物を捕まえる仕事で博之はこの地を訪れていた。<br /><br />　『じいちゃん』祖父の顔が浮ぶ。<br />博之が社会に対する疑念を口にだすと祖父は悲しい顔をした。<br />〝俺らは罪を償わなきゃ、ならんのさ。地上で散々悪事をしてた報いだ。それをマザーは救ってくれた。どんなに酷くても、マザーに着いて行くしか道はねえ〟<br />祖父は博之の頬を撫でた。<br />『じいちゃん、騙されていたんだよ。あいつ達、俺らを笑っていたよ』<br />博之は祖父の行方を問い詰めようと、その作業員が一人になるの待ったが、途中で発見され、逃走して来たのだ。<br />「きっと、爺ちゃんを助け出すんだ」改めて心に誓い、博之は歩き始めた。<br />もう少し行くと湧き水あり、喉を潤すことが出来る。この一帯には土地勘があった。博之の足音に驚いたのか小動物が岩陰に逃げ込む。博之は念のため周囲を見回し物音を探る。<br />『大丈夫だ』　まだ、追手の足音は聞こえなかった。<br />　<br />　地面にころがっている大石を、博之は巧みに避けながら走ってゆく。水音が聞こえ、足が速まる。前方には丁度、差し込んだ薄日が湧き水を柔らかに照らし出していた。近寄って見ると湧き水は白銀のように輝き、波紋を広げていた。博之は喉の渇きも忘れ、それをしばし眺める。波紋は向こう側で溢れ、音を立て細い水路となって流れいく。<br />その水音に別の音が重なる。顔を上げると遠方から小型飛行船が近づいて来る。博之は身を伏せると岩陰に後退する。上部の対落石プレートが薄日を反射させ飛行船は行き過ぎる。<br />『医療軍め』　船腹には医療軍の赤十字が大きく描かれていた。<br />飛行船は去り、博之は湧き水の中に乱暴に両手を入れ、水をむさぼり飲む。<br />記憶が蘇り、顔を上げる。<br />『鍾乳洞だ、しばらく中に隠れていれば追手も諦めるかもしれない』鍾乳洞はすぐ近くにあった。偶然、博之が発見したが、医療軍には知られていない可能性があった。<br />　<br />　鍾乳洞への割れ目に体を潜り込ませると、ひんやりとした冷気が体を包んだ。傍らには水が流れている。立ち上がって暗闇の中を上流へ進む。虫化された目にはぼんやりと視界が開ける。遠くの水音が重なりながら聞こえている。博之はゆっくり歩を進めた。二手に分かれた洞穴を前にして博之は腰を下ろした。右側の洞穴から水が流れて二手に分かれ、一方が左側の洞穴へ流れていた。<br /><br />　なにげなく掬った水の冷たさが、辛い記憶を蘇らせた。<br />『あさみ…』　<br />冷たくなってしまった頬、掌、強く抱きしめると壊れそうな頼りなさに、溢れる感情を声に乗せ、ただ泣くしかなかった。恋人の突然死、それは虫化人間の社会では百人に二人の割合で生じていた。司祭たちは神の招きとして祝福し、来世は人として生まれてくるからと博之を慰めたが、実際は、人に虫の遺伝子を組み込んだ為の弊害であったことを博之は知らない。<br /><br />　暗闇はまた一つ過去の記憶を浮び上げた。<br />大好きだった叔父の突然死、それは恋人が亡くなってから一月も経たずに起きた。工事中に突然倒れ、家に運ばれて来た。ヘルメットを被った煤けた顔が、表情をなくし博之に向けられたいた。叔父の妻や子たちが泣きながら遺体にすがっていたのを、立ち尽くし博之は見ていた。大切な人の死の重なりが社会への違和感を生み、それ以来、博之は違う目で社会を見るようになった。<br />掌から水が流れ落ちる。<br />そして遅れてやって来た悲しみが、身を突き刺し、博之は背をかがめ両足を抱いた。
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<title>私の×造（チョメゾウ） 「悪童！メンゴ！」</title>
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<description>６年生になると、×造は忽然と姿を消した。一人っ子の×造は団地の同じ棟にいた。小さい頃、近くの公園には、いつも黒眼鏡の×造の「父ちゃん」が一緒で、顔が恐かったけど、俺も色々買ってもらったり、一緒に遊んで貰っていた。４年生頃からからだろうか、その「父ちゃん」を見かけなくなり、×造の雰囲気も変わってしまった。目つきが暗く、服装はだらしなく、顔や腕に小さい傷が増え、肌が黒くなった。実はもともと母子家庭で、「父ちゃん」が蒸発した後、母親が夜の仕事に出るようになり、×造は夜遅くまで、中学...</description>
<dc:subject>私の×造（チョメゾウ）</dc:subject>
<dc:creator>村松恒平</dc:creator>
<dc:date>2007-02-06T23:24:49+09:00</dc:date>
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６年生になると、×造は忽然と姿を消した。<br />一人っ子の×造は団地の同じ棟にいた。小さい頃、近くの公園には、いつも黒眼鏡の×造の「父ちゃん」が一緒で、顔が恐かったけど、俺も色々買ってもらったり、一緒に遊んで貰っていた。<br />４年生頃からからだろうか、その「父ちゃん」を見かけなくなり、×造の雰囲気も変わってしまった。<br />目つきが暗く、服装はだらしなく、顔や腕に小さい傷が増え、肌が黒くなった。<br />実はもともと母子家庭で、「父ちゃん」が蒸発した後、母親が夜の仕事に出るようになり、×造は夜遅くまで、中学生らとゲーセンに出入りしていたらしい。小学生のくせに金使いが荒かった、とも聞いた。<br />かくして×造は皆から敬遠され始め、×造も仲間に入って来なくなった。<br /><br />それからしばらくして俺達、普通の小学生も、ゲーセンの大流行に感染した。<br />その頃のゲーセンは、どこも先客で満席、たいてい中学生以上の連中が、テーブルに小銭を積んで、人気ゲームを占有していた。<br />そのため俺達は、学校が終わると、とりあえず近所の駄菓子屋に走った。10円のインベーダーやその類いが置いてあったからだ。<br />但し、そういう店でも、新しいゲームは50円か100円だったから、たまに小金持ちの同級生が遊んでいれば背後に群がって、小便の時などに交代させて貰ったり、ゲームの電源をガチャガチャやって[残数99]とかにするインチキ中学生に媚びたりしていた。<br /><br />もちろん俺達も、それを良しとしていた訳じゃない。日々、小銭集めには精進した。<br />夏場はカブトやクワガタを取って、街のペットショップで売り捌き、虫が取れなきゃ自宅や近所の１リットル瓶を片っ端から酒屋に持ち込んで換金した。<br />売り物が無ければ、近所中の自動販売機を練り歩き、祈りを捧げるように自販機の下を物色した。<br />酒屋の裏からケースごと空瓶を持ち出して、別の酒屋で換金するやつもいたし、車上荒らしで捕まったやつもいた。<br />そんな中での小学５年生の春休み、再び俺は×造と接触したのだった。<br /><br />大型スーパーの屋上にあるゲームコーナーの帰り、俺が出口付近の自販機など物色していると、<br />「なーにやってるだかっ」と言って、床にしゃがんでいた俺の背後に×造がいた。×造はネックレスなどして、少し年長に見えた。でも立つと俺のほうが大きく、やっぱり調子づいた悪ガキにしか見えなかった。<br />「いいこん教えてやるから来おし」（いい事教えてやるから来なよ）<br />戸惑いながらも俺は、手招きする×造に従って、スーパーの駐車場周辺で「使えるレシート」を探し回った。<br />×造はしたり顔でゴミ箱を漁り、俺は自転車置き場をうろついた。<br />＜T1デンチ2パック * 10　…　…　合計\3,700＞<br />と記載のあるレシートを見つけて×造に見せると「オオ、コレ！」と俺から奪い取り、ちょこまかと店内に消えた。<br /><br />慌てて俺は、２回へ上がっていく×造の後を追った。<br />×造は、エスカレーターの向こう側の電気関連売り場で、例のレシートを確認しながら、単一乾電池２本パックを丹念に物色していた。<br />悪いことしてる！そう思った途端、俺は息が止まりそうで、×造に近づけなくなった。<br />目当ての乾電池を抱えた×造は、エスカレーターから１階へ降りていった。<br />身を隠していた俺は、わざわざ階段を使って×造を追った。<br /><br />１階は夕方の買い物客で込み合う食品売り場で、×造は、ひしめく主婦達の間を縫って、一番手前のレジに辿り着いた。俺は隠れて、×造の動作を覗いていた。<br /><br />レジを打つ店員に×造が何か話した。<br />店員は驚いたような顔をして、×造が抱えている電池の山を凝視した。<br />レジを待つ主婦達に会釈した店員は、×造から電池を受け取った。<br />すかさず×造が、かのレシートを店員の鼻先に差し出した。<br />レジを待つ主婦が何か言った。再び店員は、主婦達に会釈したが、×造はじっと店員を見ていた。<br />店員は、電池を置いてレシートを手に取り何か書き込んで、ハンコ？を押し、レジを打って現金と、新しいレシートを×造に手渡した。<br />×造は少し笑って踵を返し、店員はもう一度主婦達に詫びていた。<br /><br />颯爽と外に出た×造を追って声をかけると、×造は、さも面倒くさそうに俺を一瞥し、目で人気のない方を指した。<br />俺は、なぜか気まずい思いで、自転車置き場の一番奥までついて行った。<br />×造は、俺の手に千円札をのせた。「うそ！」俺は思わぬ収穫に仰天、×造のネックレスが神々しく感じられた。<br />「明日Ｙマートでやるから来おし」<br />そう言って、母親が仕事に出る時間だからと、×造は自転車で走り去った。<br /><br />それきり、ゲーセンに行っても、スーパーに行っても、×造と会うことはなかった。小学校でも、一度も見かけなかった。<br />×造は、あの春休み中に補導され、その件で母親と警察の間でもトラブルが起こり、×造だけ別の県の親戚に引き取られたらしかった。<br /><br />「明日Ｙマートでやるから来おし」<br />…約束の当日、俺は恐くなって、家から一歩も出なかったのである。
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<item rdf:about="http://denkimimizu.seesaa.net/article/31366893.html">
<title>妄想だけは電車の中ですくすく育つ 駆込み乗車 その２</title>
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<description> 田中洋一君は新婚であった。新婚と言っても６ヶ月を過ぎようとしているのだからアツアツと言うには微妙な時期である。午前様でも堂々と手ぶらで帰るけど、休みの日には、手を握りながらお散歩をすると言うくらいの関係である。 その日は、重要な会議がお客さんのオフィスであるというのに妙に間が悪くて、会社を出ようとすると部長に捕まり、バスはギリギリで乗り遅れ、電車は信号故障に引っかかってしまった。そんなこんなで約束の時間１５：００に１５分も遅刻してしまった。駅で待ち合わせしていた福山からすご...</description>
<dc:subject>妄想竹は電車の中ですくすく育つ</dc:subject>
<dc:creator>村松恒平</dc:creator>
<dc:date>2007-01-13T23:30:10+09:00</dc:date>
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　田中洋一君は新婚であった。新婚と言っても６ヶ月を過ぎようとしているのだからアツアツと言うには微妙な時期である。午前様でも堂々と手ぶらで帰るけど、休みの日には、手を握りながらお散歩をすると言うくらいの関係である。<br /><br />　その日は、重要な会議がお客さんのオフィスであるというのに妙に間が悪くて、会社を出ようとすると部長に捕まり、バスはギリギリで乗り遅れ、電車は信号故障に引っかかってしまった。そんなこんなで約束の時間１５：００に１５分も遅刻してしまった。駅で待ち合わせしていた福山からすごい文句を言われながら駅の階段を駆け上るはめになってしまった。<br />　これ以上開けないほど足を広げて階段を上り、息を切らせて、ホームに上がったときは、目の前に停車している電車に最後の人が吸い込まれようとしていた。「ヤベー！ダッシュだ」二人は大慌てでドアに走って行き電車に飛び込んだ。福山は先に飛び込み、田中君も運動神経は良い方なので、ジャンプして間一髪間に合うはずであった。ところが彼の持っていたカバンが始発を待っていた人の背中にぶつかり右手がホームに残った。<br />　瞬間　ドアが閉まった。ざくざくざくという肉を切る音とゴキっと言う骨が砕ける鈍い音が田中君の耳に届いた。<br /><br />「洋一大丈夫かよ」福山が覗き込む。<br />「ウーン大丈夫じゃないみたいだ」と、うめき声に近い声で田中君が答える。<br />「あれ？お前右手は」<br />「さっき、もって行かれちゃたみたいだ」<br />田中君は左手で肩を押さえているが、指の間から血がどくどくと流れている。右半身は肩のところから切られてなくなっており白い肩甲骨がむき出しに現れていた。彼らは血の固まりが早いのでしばらくすると出血はかなり収まってきたがそれでも右肩の殆どをやられていたのでかなりの量の出血だ。<br />「次の駅で病院にいったほうが良いんじゃないか。」<br />「ああ、そうだなぁ、悪いけど頼むよ」<br /><br />　彼らの世界にも病院はあるのである。生きている限りは尊重されるし、治療する機関はあることはあるのだ。ただ病院と言っても、我々のところの様に延命だけが目的でなくて、純粋に医学的な目的もあるので治療薬も研究中の薬を与えてみたりしている。それで亡くなっても「あーあ失敗しちゃったぁ」ですむ世界なのである。もちろん、しつこいようだが、彼らの中に不純な気持ちで治療をするものはいない。医学の進歩のため良かれと思ってのことなのだ。<br /><br />「福山・・・」田中君が情けない声になってつぶやいた<br />「お！どうした保険証忘れたのか」<br />「やっぱ、次の駅まで持たんわ・・・」そういうと田中君はずるずるとその場に崩れていった・・・<br />「何だ、死んじゃったよ・・・やべぇなぁ俺がプレゼンすんのかよぉ、引継ぎだけでもしときゃよかったなぁ」福山は足元の田中君をじっと見つめていた。<br /><br />電車が　渋谷に着いた。ドアが開いたので福山は田中君の体を足で車外に押し出した。<br />田中君の体はゆっくりと１回転して水路にポチャンと落ちた。<br /><br />死んでしまった人を水路へ放り出しておく、ありきたりの光景である。ところが、いつもと大きく違っていたことがあった。水に落ちた衝撃で田中君は意識を取り戻してしまったのである。<br />「あれ、俺まだ死んでなかったんだ。変なの」<br />　普通は片腕を切られて一駅そのままだったら大抵死んでしまうのである。だから福山が田中君を用水路へ落としたのは彼らの行動としては特に間違ってなかったのだ。どうやら田中君の心臓は、普通の人より強かったようである。<br />「そうだ、今日は美佐子の誕生日だったんだ。」<br />「今日は私の誕生日だから早く帰って来てね。」笑って送り出してくれた美佐子のえくぼが脳裏に浮かんだ。<br />「お祝いのネッカチーフ渡せなかったなぁ」とだんだん意識が遠くなってきた。<br /><br />瀕死の田中君の体は水路に横たわったまま、ゆっくりと処理場へと流れて行くのであった。
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<item rdf:about="http://denkimimizu.seesaa.net/article/28846049.html">
<title>ジブラルタルの霧 2</title>
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<description>   やっと来たバスの中で、野村は彼と並んで一番前の席に座った。フロントガラスから見えるジブラルダルの景色が気になった。しかし彼が野村の目を見て真剣な表情で話しかけてくる。こちらもまじめに話を聞かないわけにはいかない。良い英語の勉強にもなると思って、野村は彼の英語に集中して耳をかたむけた。 彼の名前はデイビットと言った。彼の青みがかかったグレイの瞳は、飛行機から見た地中海のようだった。 野村が１度「PLEASE SPEAK SLOWLY（もっとゆっくり喋ってください）」と言っ...</description>
<dc:subject>ジブラルタルの霧</dc:subject>
<dc:creator>村松恒平</dc:creator>
<dc:date>2006-12-04T00:43:58+09:00</dc:date>
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  　やっと来たバスの中で、野村は彼と並んで一番前の席に座った。フロントガラスから見えるジブラルダルの景色が気になった。しかし彼が野村の目を見て真剣な表情で話しかけてくる。こちらもまじめに話を聞かないわけにはいかない。良い英語の勉強にもなると思って、野村は彼の英語に集中して耳をかたむけた。<br />　彼の名前はデイビットと言った。彼の青みがかかったグレイの瞳は、飛行機から見た地中海のようだった。<br />　野村が１度「PLEASE SPEAK SLOWLY（もっとゆっくり喋ってください）」と言った後は、多少、ゆっくり話してくれたので、野村も話が見えて来た。デイビットが言っている事は、たぶんこんな内容だ。<br /><br />　地球の地下にはシャンバラと言う地下帝国があり、そこには地上の世界が世紀末を迎えた時に、選ばれた人だけがいけるらしい。彼の推測では、地球環境は２１世紀中に取り返しのつかない事になり、砂漠化と大洪水で多くの人が死ぬ。現在世界を支配している大金持ち達は、それを知っていて宇宙に逃げようとしている。だからアメリカは国をあげて火星を探索しているらしい。その為にイラクやアフガニスタンに戦争を仕掛け、武器を売ってお金を作っている。<br /><br />　デイビットが一気に話し「Do you understand?」と確かめるように野村の顔をのぞいた。野村が申し訳なさそうな顔をして、親指と人差し指を少し離して「リトル」と答えると、デイビットは何度も何度も話を繰り返した。そのおかげで野村は大体のストーリーを自分の頭の中で構築できた。最初は、宇宙だとか火星だとか、なんか突拍子もない話に思えたが、何度もデイビットの同じ話を繰り返し聞くうちに、自分も選ばれるのかどうか、知りたくなっていた。<br /><br />　彼は真面目な顔で「これは秘密だぞ、絶対、誰にも言うな」と前置きしてから話を続けた。野村はデイビットの真剣なまなざしから目をそらす事も出来ず、蛇ににらまれたカエルのように、ビクビクしながら頷き、音を立てて唾をのみ込んだ。<br />「世界はフリーメーソンという秘密結社によって動かされている。我々庶民は彼らの思うように動かされていて、彼らが起こす戦争というゲームにかり出される、ただの駒なんだ。<br />　我々はそんなことも気付かずに、お金の為に身を粉にして働いている。そうなると自然と忙しくなり、世の中の矛盾やフリーメーソンの存在などについて考える時間がない。結局、目先の欲しか考えられないでいるのさ。これじゃフリーメーソンの思うつぼだ」<br /><br />デイビットの言葉には野村を納得させる節があった。彼が言うように日本人は忙しすぎだし、お金の為に働いていて本当に幸せなのか？と思う。<br />野村はその同意を示すように、「YES,YES」と声を出し、何度も大きく頷いた。デイビットはそんな野村を見て、嬉しそうに微笑んだ。<br /><br />「僕らはもっと基本的な事を考える事が必要なんだ。どうやってお金を生み出すかばかりを考えるのではなく、世の中の仕組みや常識となっている当たり前の事を疑い、どうしてそうなのだろう？と考えなくてはならない。例えば、国という枠組み、考え方はいったい、いつ誰が決めたのだろう？とかね。でもそんなことはちょっとやそっとじゃ分からない。答えを出す為には時間が必要だろう。つまり暇を持て余すくらいの時間がないと、そういうことは考えられないのさ。だいたい現代の人々は忙しすぎるよ。これもフリーメーソンに巧く操られているに過ぎないんだな。それに現代人はテレビやマスコミに洗脳されてしまっている。そう思わないか？」<br /><br />　そう聞かれても野村には話が見えてなかった。答えに詰まっていると、デイビットは、かまわず話を続けた。<br />「だいたいこれだけ地球上の人口が増えると、すべての人を救出するわけにはいかないんだ。自分で考え、世の中の不条理に対して何がしかの行動を起こした人だけが救われることになる。だから僕はシャンバラへの入り口を探しているんだ。宇宙に行けない我々は、シャンバラを探して生き延びるしかないじゃないか」デイビットは真剣なまなざしで訴えた。<br />　野村はデイビットが言う難しい話はよく分からなかったし、単語の意味も分からないものがたくさんあったが、聞いているうちに質問が湧いて来た。<br /><br />「どうやってシャンバラに行くんだ？」<br />野村がそう訪ねると、「シャンバラへの入り口は地球上に８カ所ある。ジブラルダルの他には、カイラス山やトルコのカッパトギアがそうだ」と教えてくれた。<br />「お前もこれから行くCAVE(洞窟)を見たら、ここがシャンバラへの入り口だと分かるだろう」<br />デイビットはそう言った後、バスが大岩の麓につくまで、窓の外を見たまま、口を開かなかった。<br />　野村は窓の外で流れるジブラルタルの街の景色を見ながら、デイビットが話したシャンバラという世界に、次第に興味がわいて来ていた。岩山が見えはじめ近づいてくると、不思議と胸の高鳴りを感じた。<br /><br />　野村はバスを降りて岩山を麓から見あげた。でかい。ヨーロッパ・ポイントから見た時と角度が違うのか、思っていたより斜面が緩やかだ。白っぽい山肌には縦に割れ目が入っているのが見える。土で出来た山というより、やはり１つの岩山だ。こんなでかい岩があるなんて、、、そう考えると、それだけで神秘的に思えてくる。あの白い表面は石灰岩なのだろうか。まるで苔のように背の低い樹がその白い岩肌の所々にはえている。<br />　そうやって見れば見るほど、こんな半島の先端に、それもヨーロッパの南端に、これ程、大きい岩があるなんて、不思議な感じがしてならなかった。よくよく考えてみれば、山だってあり得ない。自然にしては出来すぎてる。というか、デイビットのシャンバラ話を聞いた後だったせいもあるが、野村には人工物のような気もして来た。そう思うと背筋がシャキっと伸びて、なんかワクワクしてきた。<br /><br />　流れていく霧の中にうっすらと見える頂上。白い建物がぼんやりと建っている。あそこまでどのくらいあるだろう？高さは５００mくらいか？ <br />　歩き出したデイビットを見て、野村は頂上まで歩いて登るのかと怖じ気づいた。道はあるのだろうか？もし道なき斜面を登って行ったら、２～３時間はかかるだろう。<br /><br />　だがデイビットの後を着いていくと、岩陰にケーブルカーがあった。１６ポンド（３２００円）も払いケーブルカーに乗りこむと、我々の後から何人もの人が乗って来た。皆、観光客らしい。家族連れだ。８人乗りのケーブルカーは、すぐ満員になって動き出した。<br />　登って行くケーブルカーから見る景色に、野村は目を奪われた。ダイナミックな風景がどんどん広がって行き、海も見えて来た。野村の気持ちもどんどん高まっていった。<br /><br />　他の客は頂上まで行く様子だったが、野村とデイビットは山の中腹で降りた。デイビットについて緩やかなコンクリートの上り坂を歩いて行く。１０分ほどで土産屋をかねたレストランがあった。その横には「CAVE」と書かれた矢印がある。どうやらここがシャンバラへの入口らしい。野村は早足で歩いたせいもあるのかドキドキしていた。デイビットは早足で先に行ってしまったが、野村は立ち止まって深呼吸をした。「シャンバラかぁ」<br />デイビットからあれだけ話を聞かされたせいか、どんな所なのだろうという好奇心と、神秘の名所を訪れることができるワクワク感。野村は唾を飲み込んでから、麓で買ったチケットを見せて中に入っていった。<br /><br />洞窟の中は、ひんやりとした空気のせいか、武者震いのせいか、背中がゾクゾクッとした。中には照明が所々についているが、全体的に薄暗く、地中の水が漏れてくるのか足元は濡れていた。<br />オレンジ色の照明がどこか神秘的で、野村は口を開けたまま、周りを見回していた。<br />「いやぁ、でかいなぁ」野村は立ちつくしたまま、そうつぶやいた。
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<item rdf:about="http://denkimimizu.seesaa.net/article/27430815.html">
<title>私の×造（チョメゾウ） 「妄執の穴ぼこ石」</title>
<link>http://denkimimizu.seesaa.net/article/27430815.html</link>
<description>玄関まで庭を横切る黒い敷石のひとつには、石鹸置き程度の窪みがあった。蒸し暑い８月の夕方、少年はその傍らにしゃがみ込んで、こぶし大の石を持ってコツコツと「穴ぼこ石」を打っていた。窪みには、潰された毛虫と虹色に光る体液が澱み、手にした石の先には、毛虫の棘や毛が付着していた。少年は、額から滴る汗を気にも留めずに、跡形もなく毛虫を潰すとすぐ後ろの柿の木を物色して、毛虫の付いた葉をちぎり、器用に石の窪みに落としては、コツコツとやるのだった。小学２年生の少年は、祖父母の家に泊まりに来てい...</description>
<dc:subject>私の×造（チョメゾウ）</dc:subject>
<dc:creator>村松恒平</dc:creator>
<dc:date>2006-11-14T02:02:01+09:00</dc:date>
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玄関まで庭を横切る黒い敷石のひとつには、石鹸置き程度の窪みがあった。蒸し暑い８月の夕方、少年はその傍らにしゃがみ込んで、こぶし大の石を持ってコツコツと「穴ぼこ石」を打っていた。窪みには、潰された毛虫と虹色に光る体液が澱み、手にした石の先には、毛虫の棘や毛が付着していた。<br />少年は、額から滴る汗を気にも留めずに、跡形もなく毛虫を潰すとすぐ後ろの柿の木を物色して、毛虫の付いた葉をちぎり、器用に石の窪みに落としては、コツコツとやるのだった。<br /><br />小学２年生の少年は、祖父母の家に泊まりに来ていた。祖父母の家は、少年の自宅から車で１時間弱、仕事で同じ方面に行くという父親のワゴンに便乗したのだった。「明日迎えに来ますんで」と言って、簡単な挨拶だけで、父親は忙しそうに立ち去った。<br />その日の夕食後、少年は祖父から、イラガの幼虫に刺された痕を見せられた。<br />少年の祖父は、その毛虫に刺され、あまりの痛さに脚立から落ちて入院した時のことを、こと細かに少年に語った。少年の目は、祖父の醜いチョメゾウから一時も離れることがなかった。<br /><br />皮膚が弛んで皺の多い祖父の腕は、チョメゾウの部分だけ皮が張って、少年には、そこだけ別の生き物であるかのように思われた。やや赤く盛り上がった部分の頂点には、ケシ粒ほどの瘡蓋が載っていた。少年は、自身の爪でその瘡蓋を剥ぎ取り、そこから血ではない何ものかが、とろりと溢れるのを想像した。<br /><br />「しまうよ」<br />祖父が袖を下ろそうとして、少年は慌てて祖父の顔を見た。「これっきりだぞ」という雰囲気を感じ、少年は思わず祖父にせがんだ。<br />「待って、触らせて」<br />祖父の返答を待たずに、少年の指は、祖父のチョメゾウに接していた。<br /><br />祖父の大きなチョメゾウは、緩んだ皮膚のせいで、少年の指の動きに合わせて抵抗無く動いた。少年は、上下左右にチョメゾウを滑らせた。チョメゾウ自体の形は、微塵も変わることが無かった。<br />少年は、例の瘡蓋を剥ぎ取れば、皮下の本体が皮膚と分離し、チョメゾウがもっと自由に動くことが出来る気がした。そして、手の甲に移動したチョメゾウや、首まで登って鎖骨で一休みするチョメゾウを想像した。<br />少年の爪が、チョメゾウの瘡蓋にかかり、指の動きが止まった時、祖父が少年の手を掴んだ。<br />「痛いよ。治らんよう、ちっとも」<br /><br />その晩少年は、何年ぶりかの寝小便をした。祖父のチョメゾウに興奮して眠れず、夜中に麦茶など飲んだからだ。<br /><br />翌日少年は、朝の間だけ気を落としていたが、午後からは寝小便のこともチョメゾウのことも、すっかり忘れてしまったように快活さを取り戻していた。<br />午前は、祖母と買い物に出かけ、暑い盛りには昼寝をし、午後は祖父にくっついて、庭の手入れや池の掃除など手伝った。少年にとっては、すべて遊びだったし、何をやっても面白かった。<br /><br />陽が傾きかけた頃、仕事着の父親が迎えに来た。<br />少し疲れて横になっていた少年は、まだ帰りたくないと思う反面、父親の登場で大いにはしゃいだ。<br />「見て！おじいちゃんのチョメゾウ！」<br />無礼にも少年は、祖父の袖を勝手にまくって、父親の方へ祖父のチョメゾウを向けた。<br />「おい、やめろ！」父親は少年を睨み付けた。<br />少年は、祖父の容認に勢いづいて、なおも父親に同意を求め続けた。「触ったんだよ、すごいでしょ！」<br />「おい！干してある布団の小便は誰がやった！」<br />少年の無礼を嗜めるには、あまりにも強烈な大型爆弾であった。<br />「いくつだ、何年生だ、何で今頃やらかした？え。」少年は、何を聞かれても答えようが無かった。<br />「ああ、水を遣る時間だ。頼んでいいかな」<br />身動き出来ずにいた少年は、祖父の助け舟によって、苛立つ父親の詰問を逃れることが出来た。<br /><br />少年は、昼の熱気を残す庭先に出て、好き勝手に水撒き用ホースを振り回したが、少しも楽しめなかった。<br />…なんで布団、隠してくれなかったんだ…なんであんなに怒るんだ…なんで今日帰るんだ…なんでチョメゾウの…<br /><br />少年が顔を上げると、祖父がイラガの幼虫に刺された柿の木があった。少年は、割と近い、手の届く葉の裏に、紫の刺青を背負った、毒々しい毛虫が動くのを発見した。<br />…おまえのせいだ。<br /><br />そう思った途端、少年は足元の「穴ぼこ石」の窪みに溜まった土を蹴りだして、イラガの幼虫を柿の葉ごと引きちぎり、そこに振り落とした。<br />少年は、こぶし大の石を持ってきて、傍らにしゃがんで、幼虫に載せた。<br />あえなく潰れた幼虫から膿のような液体が飛び出て、少年は、祖父のチョメゾウの中身を想像した。さらに少年は、毛虫らしさの残る部分に、悉く石を打ちつけ、「穴ぼこ石」の窪みの残滓に唾を落した。<br />なおも湧出する唾液を飲んで少年は、父親のことや寝小便のことなどすっかり忘れ、満面嬉々として、次なる獲物を探すのであった。
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<title>彼の岸異聞 （６．雑草）</title>
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<description>｢あいたた｣左肩の痛みに幸太は体をひねった。さっき腰掛を粉々にした大男が背後から幸太の左肩をつかみ右腕を幸太の首に回して喉を抑えていた。王の兄さんが大男をなだめるように何か言った。大男は土間につばを吐いてしぶしぶと腕を緩めたが、幸太を放しはしなかった。｢私は頌世。弟、頌張が大切なもの持って逃げた。私たちは取り返す。｣｢兄さんへの土産じゃと言うとったぞ｣｢わたし、兄さん。吉林は兄さんいない｣幸太は王の兄さんだという頌世を見つめた。落ち着いて見ると王さんとこの頌世は良く似ている。...</description>
<dc:subject>彼の岸異聞</dc:subject>
<dc:creator>村松恒平</dc:creator>
<dc:date>2006-11-09T00:59:18+09:00</dc:date>
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｢あいたた｣<br />左肩の痛みに幸太は体をひねった。さっき腰掛を粉々にした大男が背後から幸太の左肩をつかみ右腕を幸太の首に回して喉を抑えていた。王の兄さんが大男をなだめるように何か言った。大男は土間につばを吐いてしぶしぶと腕を緩めたが、幸太を放しはしなかった。<br /><br />｢私は頌世。弟、頌張が大切なもの持って逃げた。私たちは取り返す。｣<br />｢兄さんへの土産じゃと言うとったぞ｣<br />｢わたし、兄さん。吉林は兄さんいない｣<br />幸太は王の兄さんだという頌世を見つめた。落ち着いて見ると王さんとこの頌世は良く似ている。けれど一見似ていると分からないくらい雰囲気が違う。目に輝きがあって賢そうなのは二人とも同じだが、王さんの目には小ずるい光があり多弁で落ち着きがなかった。幸太は頌世の視線をとらえ目を探った。頌世は何も言わずに目で話すようなところがある。<br /><br />今も黙ったまま不思議そうに幸太を見つめ返すだけだ。何を不思議がっているのだろう。満人の婆さんなんかにあっさり金を払ってやる割には幸太が貧乏な身なりをしているのが不思議なのかもしれない。それとも満人街に住む酔狂な日本人にあきれているのか。まさか日本人が珍しいわけでもなかろう。幸太は思わず首をかしげた。頌世は少し笑ったように見えた。が、その笑みは一瞬で消えた。両側に貸間が並ぶ通路の入り口辺りでののしり声だ。いつも通路で寝ている酔っ払いの爺さんを誰かが踏んづけたようだ。ここの住人なら爺さんのことは皆知っている。よそ者だ。低い声で頌世は大男に何事かささやいた。<br /><br />二人の満人は幸太をひっぱったまま、並んだ貸間の一番端にある八卦見の親父の屋台を踏み台にして裏手の商家の塀に上り、屋根に上って息を潜めた。貸間は低い平屋で上るのはわけない。しらみのわいたアンペラは屋根に干すといい、日当たりが良いのは屋根だけだから。王さんに教えてもらって幸太も上ったことがある。<br /><br />ドタドタと足音がして、誰かが王さんの部屋の戸を蹴破った。振動が安普請の屋根まで伝わった。幸太は大男に口を塞がれた。しばらく乱暴に物をひっくり返したり転がすような音がしたが、じきに物や壁を叩く苛立たしげな音に変わった。荒っぽい声がして、すぐさま隣の部屋の戸が破られた。幸太の部屋だ。幸太は屋根から下をのぞきこもうとして、口を塞いでいた大男に首を絞められかけた。それでも数人の男が出てきて口々に何か言いあっているのが見える。一人がかざした右手の物がキラリと光った。幸太の背中に冷たい汗がにじんだ。あれはずいぶん手入れの良い刃物だ。<br /><br />｢命、惜しいなら一緒に来る。ここ残れば…｣<br />しばらく経ってから身を起こした頌世は自分の白い細首に当てたひとさし指を真横に引いて見せた。脅しではない。王さんは何かまずいことに首を突っ込んで、自分も王さんの仲間だと思われているようだ。さっきの男たちは、誤解だと話して通じる相手には見えなかった。しかも、知り合いのない新京では幸太が相談できる人はいない。<br />｢王さんが持って逃げたのは何だ？｣<br />頌世は口を開きかけたが考え直したように口をつぐんだ。幸太を見つめる目だけは何か言いたげだった。幸太は途方にくれた。<br /><br /><br />｢勝手に車出して…、こんなことしちゃもう大連に帰れん。｣<br />吉林に向かってアクセルを踏みながら幸太はつぶやいた。夜逃げ同然に新京の貸間を捨て、この期に及んで気づいたが、自分は日本人だ。この大男を振り切って警察に駆け込めばなんとかなったかもしれない。いざとなれば内地に帰ればいい。あの物騒なやつらもまさか日本まで追っては来まい。うかうか頌世の言うことを聞いて王さん探しに行くなんてバカげている。幸太は唇をかんだ。<br />｢帰りたいか？｣<br />大男と幸太の間に座っていた頌世が幸太を見上げた。関東軍でも憲兵でもいい、深夜の道を飛ばすトラックを見咎めて停めてくれないだろうか、そしてこいつらを突き出しおれは内地へ帰る…、そんなことを考えていた幸太は返事に詰まった。<br />｢なぜここ、来たか？｣<br />頌世は重ねて聞いてきた。<br />｢ここの人にならない。ここの土にならない。すぐ帰る｣<br />頌世の表情と声は穏やかだった。けれど生真面目に幸太を見つめる目は真剣に答えを待っていた。幸太は前方を見るふりをして視線を逸らした。へッドライトは小さく丸く地面を切り取った。<br />｢なぜここ、来たか？｣<br /><br />幸太は貧乏百姓の三男坊だ。大人になったら家を出る。けれど分与される田畑はなく、近くに仕事口もない。なら兵隊になるのか。いや、兵隊はいやだ。すると益々居所がない。自分は満州に仕事と将来を求めたと同時に、居所のない故郷、みじめな境遇から逃げだしてきた。そうだ、これを認めたら自分があんまり惨めな気がして目を逸らしていた。おれは生まれ育った故郷が好きでこんなに懐かしく思い出すのに故郷のほうは頑なにおれを拒否するのだ。<br /><br />それなのにまたここで内地へ逃げ帰ろうというのか？居所も仕事も将来もない、あの暮らしに戻るのか。<br /><br />道が土から舗装に変わった。<br />｢もうすぐ吉林じゃ。｣<br />幸太はつぶやいた。とうとう関東軍も憲兵も出てこなかった。それが啓示のように思えた。<br />｢わしは帰らんよ。ここ以外にもう行く所はない。｣<br />遠くに浮かぶ小さな明かりは吉林の市街だ。懐かしい故郷、大連、新京にはもう帰らない。進むだけだ。<br /><br />雑草を抜いて違う場所へ捨てても露や雨にぬれたらそこの土にまた根づく。幸太は子供の頃によく手伝わされた段々畑の草取りを思い出した。あの雑草はおれだ。おれにはこの丈夫な体と知恵がある。運があればどこへ行ってもなんとか根を張るだろう。
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