2007年07月26日

ある夜とそこにある隙間

 砂利敷きの私道に車を乗り入れると、傾ききった陽の中で砂埃が膨れ上がった。この時間、アパートの駐車場にはまだ彼女の車の他車はない。彼女はエンジンを切るとハンドルに両手を置いて、一回大きく息を吐いた。車内を満たし始めた薄闇が僅かに震る。彼女はもう一度短く息を吐くと、助手席に置いたスーパーの袋とバッグを取り車を出た。
 部屋の前でご近所の主婦とすれ違う。軽く会釈だけして、部屋の鍵を明ける。部屋の中からテレビアニメの音が漂い出る。
 ただいま。スーパーの袋とバッグをキッチンのテーブルに置き、子供たちのいる部屋を横切りベランダに出る。夜寸前の青い闇が辺りを満たしている。昨日の夜干した洗濯物を取り入れる。やはりこの時間では少し湿ってしまう。彼女は洗濯物を抱えて部屋へ入ると、カーテンを引いた。
 キッチンのテーブルに戻りタバコに火を点ける。そして隣の部屋の二人の子供を眺める。小学校5年生の長男はテレビに見入っている。小学校2年生の長女はあまりこのアニメには興味がないらしく、人形で遊んでいる。
「おかあさん、お父さんから電話あったよ」長男がテレビから目を離さず言った。
「お父さん、元気なんだって」と長女。
 部屋には夜の闇が漂い始めている。
「夜、おかあさんに電話するって」と長男。長女がうなずく。
「そう」短く答えてタバコを消す。
「電気つけなさい。目悪くなるよ」バッグから携帯を取り出し、着信を確認する。何個か目の番号で手を止めしばらくその番号を眺める。それから携帯を置き、新しいタバコに火を点ける。テーブルに置いたばかりの携帯が鳴り始める。
「もしもし」…………「どうしたの」…………「今帰ってこれから子供たちに夕飯をつくるところ」…………「えっ」…………「無理」…………「元気ないよ」…………「うるさいな」…………「だから無理だって」………… 電話が鳴り始めた。すかさず長女が電話を取った。「はい…………おとうさん…………おかあさん今電話中…………うん、またね」長女はそれだけ話すとあっさりと電話を置いた。「電話みたいだから」…………「約束はできないよ」…………「じゃあ」彼女は携帯を切った。タバコを灰皿に押し付け、冷蔵庫から缶ビールを取りだす。

 夕食を終え洗い物をしていると、長女が横に立って、父親が電話をしてきた理由を聞きたがった。彼女は洗い物をさっと終わらせ、長女と風呂に入った。髪を洗って、トリートメントもしてやる。トリートメントした長女の髪をタオルでくるみ、身体を流す。湯船につかった長女は頭をくるんだタオルが解けないように、じぃーとしている。髪を洗い身体を洗い長女の横につかる。長男が一緒にお風呂に入らなくなったのは何時頃からだろう。と彼女は思う。
 風呂を出てドライアーを掛け終わると、長女は長男のところへ行き髪を触らせた。「しっとりしてる」と長女。「うん」と長男。「トリートメントしてもらったの」長女はそう言って彼女を見た。「やったげようか」彼女は長男に言った。「遠慮しとくよ」と長男。その口調は父親そっくりだった。

 ふたりが寝てしまうと、キッチンテーブルの椅子を引き、持ちかえった資料を広げる。資料に目を通し、マーキングし、書きこみをする。そうしている時が一番落ち着けるように彼女には思えた。頭を空っぽにしてただ資料の文字だけを追う。いくつかの理解出来ない個所にアンダーラインを引き、グラフはひとつひとつの数字を照らし合わせじっくりと確認する。時間は過ぎる。時間はしっかりと過ぎている。ひと通り資料に目を通すと彼女はマーカーペンを置いた。缶ビールをもう一缶開けひと息で半分ほど空けた。
 照明を消した隣の部屋でテレビの画面が浮かんでいる。
 明日も仕事だ。明日は早く起きて、きちんと朝食を作ろう。味噌汁はお麩にして、目玉焼きと、やさいはレタスとトマト。ドレッシングはお酢とオリーブオイルで作って、それから、ソーセージを焼こう。それから牛乳は欠かせない。デザートはヨーグルトにはつみつをかけよう。オレンジを絞ってジュースも作ろう。
 彼女は缶ビールの残りをひと息で空けた。
 彼女はタバコに火を点ける。
 彼女はテーブルの上の携帯を見つめる。
 彼女はテレビのヴォリュームを上げる。
「遠慮しとくよ」父親そっくりの長男の声。
 涙が溢れてきた。
 泣きたくない。と彼女は思う。それでも、涙は次から次に溢れ出る。
 その時、 洗濯機が急激な音を立てて止まり、終了のアラームを鳴らした。
 彼女はタバコを置き、ティッシュペーパーを抜くと、鼻をかみ、涙を拭った。
 それから、ゆっくりとテーブルから立ち上がる。




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2007年09月15日

夜の屋上に佇んで

 屋上は静かだった。空には分厚く雲が重なり合い、月の光を微塵も下には零さない。マンション下の駐車場で整列した十数台の自動車。駐車場を挟んだ正面の高い木立。繁った木々の葉。その向こうに住宅街が続く。彼は耳を澄ます。すると一面に、虫の鳴き声が溢れだした。
 四階建て分譲マンション。3LDKの部屋。妻と娘、そして彼。それなりの仕事とそれなりの人間関係。
 バス停まで数分歩き、バスで駅まで10分足らず。急行の停車駅になっている駅のホームは混雑してはいるけれど、ぎっしりという程でもない。毎朝、彼は急行には乗らず各駅停車に乗り込み文庫本を広げる。そのまま40分。
 穏やかな虫の鳴き声の向こう、遠くから自動車の音が聞こえる。彼は駐車場を見下ろし止まった自動車に目を遣る。微かに香る甘い香り。キンモクセイ。

「眠れませんか」彼は声の方を見た。彼の隣に男がひとり立っていた。
「どうも」彼がそう言うと男は少し微笑んだように見えた。
「どうです。一本」男はタバコとライターを彼に差し出す。
 彼は手を挙げてそれを断ると自分のタバコを出してそれに火を点けた。最後のタバコだった。彼は空のケースを捻って丸めズボンのポケットに押し込む。
「全然だめですか」男は携帯灰皿の蓋を開け手摺りの上に置いた。
「そうですね」彼も自分の灰皿を手摺りに置いた。
「私もだめです」と男。
 男はタバコをふかす。彼もタバコをふかす。
 真夜中、マンションの屋上に灯るふたつの赤く小さな明かり。
「暗いですね」と男。
「暗いです」でも、しっくりと収まっている。と彼は思う。
 
「家族の方はみんなやすまれましたか」
「ええ、随分前に」
「うちも眠ってます。お子さんはひとりでしたっけ」
「ええ、娘がひとりです」と彼。男は三十前後で彼と同じ位の年齢だった。もしかすると二つか三つ男の方が年上かも知れない。男とここでこうして話すのは何度目だろう。夜中の屋上に現れる住人はほとんどいない。風に当たるにしてもタバコを吸うにしても、わざわざやって来るには夜中の屋上は少々暗すぎる。
「うちはまだです」男は新しいタバコに火を点けるとそう言った。
 彼は半分程残ったタバコを大きく吸い込んだ。吐き出した煙は彼の目の前で広がりあっさりと消えていった。
「子供です。そろそろと思ってもう三年になります。でもまだ出来ません。一度堕ろしてしまったのが良くなかったのかも知れません」男は独り言のようにそう言った。
「奥さんはおいくつですか」彼はそう言うとすぐに余計な事を聞いてしまったなと思う。
「僕と同い年です」と男。

 昨年の秋、彼は短い小説を何編か書いた。家族の寝静まった後、ダイニングテーブルにノートパソコンを置き、毎晩それに向かった。開け放った窓から流れ込む静かな虫の鳴き声の中、彼は独りそれを試みた。僕は、で始まる小説。彼は何かすべきだと思った。とにかく何かすべきだ。と。そして彼は小説を書いた。僕は、で始まる小説。

 僕は、剥がれかけている。しかし、何から剥がれ掛けているのか分からないし、そもそも剥がれるといっても、僕が感じているのは朧気な剥がれ感のようなものであって、具体的な何かから剥がれ掛けているというのでもなかった。それでも僕は剥がれ掛けている。しかし剥がれ切れはしない。僕は、誰もいないこの部屋で机に向かいPCのキーボードを叩く。うまくするとこれは剥がれ掛けたカサブタを剥がし切る作業になるかも知れない。

「すみません。余計なことまでしゃべってしまいました」

 今何時なんだろう。相変わらず遠くから自動車の音が間欠的に聞こえてくる。そして、間髪的な虫の声。彼は駐車場の向こうの木立に視線を注ぐ、しっかりとした樹幹、伸びた樹枝、そこで一枚一枚樹葉が絡み合う。駐車場に視線を移す。アスファルト上で整列した自動車。彼は一回目を閉じ、開くと煙草を一回大きく吸い込み、灰皿にそれを押しつけて消した。彼は試しに男と男の奥さんについて考えてみようとしたけれど、それは無駄なことのような気がした。

「少しは眠くなってきましたか?」と男。
「だめですね」と彼。
「それでも明日は仕事です」
「・・・・・・」
「今から眠っても明日はきつそうです」男は少し苛ついた声でそう言うと、大きく一回タバコを吸い込んだ。男のタバコの赤い光が一際大きくなった。

 彼は目を閉じ、開く。
 風景が変る。
 透過性皆無の黒でコーティングされたツルリとした風景。
 それが彼の前に真っ直ぐ伸びている。
 どこまでもどこまでも果てしなく伸びている。
 ただ、そこに、ぽっかりと開いてしまったトンネルのように。
 彼はもう一度目を閉じ、開く。
 目の前にはいつもの真夜中の風景。
 
「一本いただけますか」と彼。
 しかし、もうそこには誰もいなかった。



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2007年12月06日

バイト明けの朝、次の日の夕暮れ

1.

 缶は広い部屋の天井付近から次々と現れ、壁沿いに這ったレールをループして作業台まで落ちてきて溜まる。彼は作業台に立ち、溜まった缶を段ボール箱に詰め続けている。
 彼は思う。缶の流れ落ちる音はこの広い部屋にさぞ騒々しく響いていることだろう。と、しかし彼には聞こえない。強力な耳栓が音を完璧に遮断している。
 この広い部屋には彼の立っている作業台の他4台の作業台があり、その内2台は昼間しか使用しない。夜間は彼を含めた3人のバイトがそれぞれの作業台で、止めどなく流れ落ちては溜まる缶を箱詰めしている。
 広い部屋の3つの作業台。彼はずっと一緒のバイト仲間とまだ一度も言葉を交わしたことがない。ひとりは若く、短く刈り込んだ茶色な髪を帽子で覆い、“いつ止めてもいいんだぜ”という姿勢を表現して作業に取り組んでいる。もうひとりは随分と年長で、終始神経質そうな目で溜まっていく缶を見詰め、一心に箱に詰める。そして、彼。
 彼は作業を続けながら、時々天井を仰いで見る。作業台から洩れる蛍光灯の光は天井に届くまでに広い暗闇に吸収されてしまう。彼は黙々と缶を詰め続ける。

彼は会社を辞めた。入社3年目の退職。親会社100%出資の中企業。それなりの仕事とそれなりの人間関係。それでいいと思っていた。
 しかし、ある日、後輩を殴った。
「われわれはこんなもんすよ。ねっ。課長」いつもの居酒屋で上司に向けた後輩の一言。
 反射的に殴っていた。確かに彼も酔っていた。
 だけど意識ははっきりとしていた。

 明け方、天井付近の明かり取りから朝の弱い光が段々と差し込み、作業台から洩れる蛍光灯の弱い光と混ざり合い始めると、段々と広い部屋はその輪郭を浮かび上がらせる。丁度その頃、缶の流れが止まりバイト係の社員が現れる。「お疲れ」バイト係はそれだけ言い、そのまままたどこかへ消えてしまう。彼はバイト係に頭だけ下げ、作業台の回りの片付けをする。片付けを終え更衣室に向かう頃、部屋はすっかりその全容を現している。
 早朝、工場の門を出る。見上げる空は何処までも青い。彼は深呼吸を一回行う。

「辞めるって、お前どうするつもりなの。式までもう何ヶ月もないんだろ」辞表を出すと上司はそう言った。
「結婚は少し先に延ばします」と彼。
「彼女は何て言ってる」
「納得してます」そうとだけ彼は答えた。

 部屋に帰ると彼はカーテンを開き窓を全開にする。部屋に朝の光が溢れ込むと、誰もいない夜の余韻はさっとどこかへ消えてしまう。それから彼はシャワーを浴びてビールのレギュラー缶を一缶飲んでベッドに潜り込む。そして、目が覚めると夕暮れ。
 しかし、その日、部屋には彼女がいた。きれいに片づけられた部屋。カーテンは既に開き、部屋は朝の光で溢れていた。
「おかえり」彼女は彼を見て微笑む。
「会社は」と彼。
「休み」彼の意外そうな顔を見て彼女はもう一度微笑むとそう言った。
「そう」
「シャワー浴びちゃって、ごはんの用意しとくから」

 シャワーから上がるとテーブルには朝食が並んでいた。
 しかし彼はテーブルには着かずそのまま彼女をベッドへ誘い全裸にする。
 テーブルの上で朝食の湯気が朝の光をキラキラと反射させている。

2.

 目を覚ますと夕暮れ前だった。彼はベッドに腰掛け取り合えず煙草に火を点ける。片づいた部屋をゆっくり見回す。彼女はいなかった。テーブルの上はきれいに片付きその隅に招待状のようなものが置かれていた。彼はそれを手に取る。

         記

  日時 平成○年○月○日 日曜日
        挙 式 午前 十時
        披露宴 午前十一時
  会場 ○○○○ホテル ○○の間

 招待状のようなものは招待状だった。元同僚の結婚式。招待状をテーブルに戻し、時計を見る。銭湯が開くのには少し早いが、早過ぎるといった時間でもない。彼は洗濯物の詰まった袋を持って部屋を出た。

 アパートから駅へ住宅地を抜け四車線道路を渡る。
駅前まで続く商店街。途中で商店街を折れるとまた住宅地となる。細く入り組んだ道。一角の銭湯。銭湯横のコインランドリー。中に人影はない。扉を引く。すると乾燥機のドラムの回る音が響き出した。
 空いている洗濯機を探し洗い物を放り込みコインを入れる。
 備付けの椅子に腰掛け、隅に積まれた雑誌から適当に一冊選び、手に取る。
 週刊誌のグラビアページをパラパラと捲る。
 数ページ捲った所で、彼の手は止まった。
『一度お願いしたいOL』
 真っ直ぐ前方に投げ出された長い脚、ぴったりと揃えられた両脚の交わりで小さく盛り上がった陰毛、腰から贅肉のない腹。過不足のない胸は、両腕を後方について身体を支えているためか、実際以上に強調されている。背けられた顔の僅かに覗く口元。
 紛れもなく彼女だった。

3.

企業会計原則の第一、一般原則の六はこうだ。
企業会計は、企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない。
保守主義の原則と呼ばれるものだ。

 会社を辞めて直ぐ彼は勉強を始めた。公認会計士。高難易度の専門的で実際的な国家資格。この半年、週の前半を工場でのバイトにあて、後半は会計学校に通った。資格取得まで最短2年。監査法人に就職して3年間の業務補助または実務従事。その後最終試験をパスすれば公認会計士として登録出来る。道のりは長い。しかしそれだけの価値はある。

 銭湯には誰もいないようだった。彼は番台に料金を置くと、使い捨ての石鹸、シャンプー、リンス、それから安全剃刀を買った。脱衣箱の列の中から適当な位置の脱衣箱を選び彼は着ている物を脱いだ順に入れていく。
 トランクス一枚になった時、携帯電話が鳴り始めた。電話は招待状の元同僚からだった。彼は少しのあいだ携帯電話の画面を眺め、通話ボタンを押す。
「久しぶり。このくらいの時間じゃないとつながらないって彼女から聞いたから」と元同僚。
「久しぶり」と彼。
「招待状届いたでしょ」
「届いてた」
「どう?」
「行けないって伝えてもらったつもりだったけど」
「彼女からはそう聞いたけど、やっぱりふたり揃って来て貰いたくて。我々は同期なんだし」
「元はね」
「元だけど、同期でしょ。二次会は4人でよく行ったあの店。憶えてるでしょ」
「社内恋愛で結ばれるふたりの結婚式に会社を辞めた人間が行けると思う」
「来れない?」
「普通、行かない」
「彼女はふたりで来たいふうだけど」
「・・・・・・」
「どう?」と元同僚。
「考えてみるよ」
「いい返事まってるよ。まだ仕事中だらか。じゃあまた」
「ああ」電話は切られた。彼は携帯を閉じると脱衣箱に置いた。

 一番風呂かと思って入った浴場には先客がいた。湯気の立ちこめた浴場の湯船の縁に老人がひとり腰掛けていた。彼が浴場に入ると老人は湯気の向こうで彼に少し顔を向けた。
 彼は身体を流し湯船に浸かる。両手で湯をすくい顔を拭う。浴場に濃く漂う白い湯気。冷えた雫が天井から彼の頭に落ちる。天井付近の全開にされた換気窓。換気窓から湯気は外へ外へと流れ出ている。彼はもう一度顔を拭うとゆっくりと息を吐き出した。

 銭湯を出るとコインランドリーに寄って洗濯物を乾燥機から袋に移す。
それから、簡易テーブルの上で週刊誌を開いた。グラビアの彼女を眺める。やはり、彼女の身体だった。彼はページを閉じ、週刊誌を元の場所に戻す。

 コインランドリーを出ると、夕暮れ時の住宅地に立ちこめる夕餉の雰囲気の中、彼は、ゆっくりと、部屋へ歩いた。

4.

 部屋に帰りドアを開くと、片付いた1DKは夕暮れに沈んでいた。
 所定の位置に洗濯物の袋を置くと、一瞬、そこに夕陽の微塵な輝きが胞子となって舞い上がった。
 部屋中。あらゆるものが微塵な胞子を纏い柔らかに膨らんでいた。
 ゆっくりとベッドに腰を下ろす。彼の回りで夕陽の胞子が舞い上る。
 テレビとレコーダー、パソコンとプリンター、本棚と参考書、テーブルと招待状。
沈黙していた。静寂があらゆるモノとモノとの関係を分断し続けていた。
 彼は立ち上がりベランダに出る。

 夕暮れの世界。

 そこで彼は彼女を発見する。アパートまでの住宅地の道を彼女はこちらに向かって真っ直ぐに歩いてくる。彼女はベランダの彼に気付くと立ち止まり手を振る。
 彼は部屋を振り返る。
 彼はむかし読んだこんな言葉を思い出した。

黄昏
沈んでゆく陽かりのなかで
何もかも
誰も彼も
静かに輝き
そして、静かに消えてゆく

5.

 彼はベランダの手摺りにもたれかかると彼女に手を振った。



作者・未木洋佑さんの自己紹介とプロフィール
posted by 村松恒平 at 23:03| Comment(0) | TrackBack(0) | その日とそのほかの日 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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