2006年09月16日

目立つな。汝、風景たれ。:ミッション1 超絶指令!?「裁断屑から『あれ』を探せ!」

会議テーブルの上に高く積まれたごみ袋の山を見て、萬平は絶句した。
「見てのとおり、これはシュレッダー屑なの。飯田博士の新規開発技術“SF3000”についてのメモがこの中にあるはずよ。文献の検索を手伝ってもらったから、分かるわね。特許申請の書類を作るために使った詳細な資料があると思うの。クライアントからの要求も、SF3000に関する情報ならとにかく何でもいいと言っているわ。制限時間は48時間。さあ始めて。」
小柄で華奢な白い手足なために、自称“バンビ”という中村マネージャーに呼ばれて会議室に入ったものの、いきなり作業の指示だった。
「そんな!?メモがあるって言ったって、ごみ袋が1、2、・・・。5個もあるじゃないですか。これを全部つなぎ合わせるんですか?」
「あなた何を聞いているの?メモが見つかればいいのよ。『全部』をつなぎ合わせろ、なんて言ってないわよ。手段は任せる。でも、必要な書類を見つけ出すだすためには、その方が手っ取り早いかもね。」
探偵稼業にあこがれて業界大手のワタナベ警備メンテンス(略称:WKM)に入社して3ヶ月、この道10年のキャリアを持つ同じ歳だが上下関係には厳しい彼女の下でずっとアシスタントをやらされている。
「これを一人でやれ、と。。。」
最大限の抵抗を示すように、呆れたニュアンスが表情に出るように呟いた。
「人員の手配も含めてあなたの仕事よ。どうせ、暇な清掃部隊が夕方になったら戻るでしょ。彼らも動員していいわ。ただし段取りが必要よね。前職の経験が生かせるじゃない?今回はね、フィーは大きいの。がんばってね。あとで橋本さんが来るから聞きながらやってくれる?それじゃ。」
そう言い残すと自称“バンビ”は飛び跳ねるように軽やかな足取りで会議室を出て行った。
「儲けがでかいからあんなに元気なんだ。しかし、メモって言ったって。。。」

なぜ警備とメンテンスの会社が業界大手の探偵社になったのか。それは会社の沿革を知るとよく理解できる。
もともと社長が自ら先頭に立って営業するビル清掃の零細企業だった。しかし、様々な会社の事務所に出入りするうちに大切なノウハウを蓄積した。それはまさに、入社してすぐに全ての社員が叩き込まれる社訓、『目立つな。汝、風景たれ。』ということだ。

一番大切なものを隠すには、普通の人が隠しそうにない場所に置くのが最善だ。仮に機密情報のコピーや盗み出しなどのミッションを実行した場合でも、作業員が運んでいるごみ収集のカートに重要な機密書類を隠し持っているなんて誰が気がつくだろう。
このごみ袋の山だって、スーツ姿の男たちが運んでいれば目立つだろうが、WKMの作業服を着た工作員とゴミ収集車がなんなく運び出したに違いない。

路上で、オフィスで、駅構内で、すれ違った清掃作業員の顔をいつまでも覚えている人はいない。人々が、我々を風景として認識するからこそ、大胆な調査作業ができるのだ。
尾行や張り込みも同様だ。ターゲットにはもちろん、無関係の通行人や近所の住人の印象にすら残ってはいけないのだ。

この本社ビルも全てが関連会社であるが、一見、雑居ビルになっている。スーツ姿でビルに入り、作業着で裏口から出て行く。そんなことが簡単にできる、WKMのアジトなのだ。接客窓口となる探偵社は、直営とフランチャイズ両方の業態でサテライト事務所が全国各地にあるが、探偵業務のコアユニットは清掃会社の一部としてカムフラージュされている。

俺は、テーブルの上にある袋のひとつを開けてみる。空気を吸い込んだごみ袋は急にカサを増した。それとともに紙の粉屑が白い煙のよう舞い上がった。ひとかけらをつまんでみる。重ねて投入したと思われる紙が層をなしている。隣同士だった部分は、意外と近いところにあるようだ。
他の袋をテーブルから下ろしてスペースをつくり、つまみ出したかけらを寄せ集めてみる。

「この辺のかけらはくっつくなあ。なになに、あっ、これはNTTの請求書だな。色がついていたり、紙質が特殊なやつは、意外と簡単なもんだね。ちょっと椅子に座っちゃおう。」

「おーい、元気かあ。ごめんごめん。」
「橋本さん。待ってましたよ!」

「あー、これかぁ。すごい量だな、こりゃ。バンビは何て言ってた?」
「『メモが見つかればいいのよ。手段は任せる。』って。清掃部隊を動員していいって言ってました。」
「懐かしいよ、こんな仕事。昔からごみ漁りは良くある仕事なんだけど、シュレッダーが普及してからは大変なんだよ。最近は中国の会社に下請けに出してるけどな。彼らは人海戦術が得意だから。でも今回は急ぎだろ?とりあえず、道具の調達、作業場所の確保、進行表の作成、動員計画、これを分担して取り掛かろう。萬平君は、道具を調達してきてくれない?4階の倉庫にあるはずだから。」
「道具?そんなものがあるんですか?」
「マニュアルがあるんだけどなあ。段取りが大事だよ。バンビは言ってなかった?意地悪な奴だな。そこにあるだろうに。」そう言うと、百科事典や六法ばかりのキャビネットを指差した。



 作者・チャンさんの自己紹介とプロフィール
posted by 村松恒平 at 02:22| Comment(1) | TrackBack(0) | 目立つな。汝、風景たれ。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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