2006年08月04日

コドモの情景 第1話

  『キレンジャー無き後の怒りの矛先は何処へ・・・。地球の平和(半径200m以内)を守れ!』

『ヒーロー』。この言葉を聞いて反応しない男の子は少ない。子供の頃は誰もが憧れる戦隊ヒーローは初代から数えて現在、30組目が活躍している。

戦隊ヒーローは基本的に5色の全身タイツのような衣裳にベルトや長靴を装着して『ちきゅうのへいわ』を守るために、まともな職につくこともせず日夜『あくのそしき』にアンテナを張り巡らせている5人の戦士である。
大抵の場合、赤は正義感が強いリーダー、青は少しキザな二枚目、緑は心の優しい知的な青年、ピンクは美人でじゃじゃ馬なお姉さん、との設定がなされており、子供達は好きなヒーローに自分を投影させて遊ぶ姿をよく見かけることがあるが、問題は黄色である。

戦隊ヒーローモノの草分け的存在『秘密戦隊ゴレンジャー』のDVDのパッケージには
『アカレンジャー・・・ゴレンジャーのリーダーだ』
『アオレンジャー・・・かっこうよくてメカのうんてんがとくい』
『ミドレンジャー・・・どうぶつがとってもだいすき』
『モモレンジャー・・・かがくがとくいなやさしいおねえさん』
と各戦士の写真と人間性を判りやすく説明したキャプションが付け加えられていたのだが、キレンジャーの場合
『カレーがだいすきなんだ!』
だけで終えられている。
ポパイのように食べることによって力が強くなるようなことではないらしい。ただのカレー好きをアピールされることによって、「あっ、ボクもカレーが好きだから」とキレンジャーを崇拝する子供は少ないように思える。
毎回カレーライスを満面の笑顔でたいらげるキレンジャーによって、子供達のカレー欲をMAXまで高めたであろうことは想像に難くない。しかしやはり人気がなかったのか、当時のレトルト食品会社でキレンジャーを前面に押し出したカレーが登場したことはなかった(最近31年目にしてやっと、『キレンジャーカレー/中辛』が発売されたらしい)。

力持ちという設定でもあるキレンジャーに武器はない。至近距離で敵を抱きかかえて骨を痛める“阿蘇山絞め”やヒッププレスの“阿蘇山落とし”という技で相手を倒す。柔術を応用し悪人の腰骨を外して、人体を二つ折りにする『必殺仕事人』よりも地味な技だ。ついでに顔は3枚目、西郷隆盛を彷彿させる博多弁で挙句の果てに肥えて俊敏な動きもままならない。そんなキレンジャーの横では、他の2枚目な戦士たちが鞭や弓でスマートに敵をやっつけていた。

最近は戦士全員がアイドル並みの顔立ちとなり、人情味溢れるヒーローはどこにもいない。愚鈍な少年が3枚目役をやる必要も無くなり、子供達全てがはあくのそしきをやっつける正義の2枚目のヒーロー気取りだ。最近の少年達の戦隊ごっこに少々の物足りなさを感じたが、私が小さい頃もすでに戦隊ヒーローのなかにキレンジャーのような存在が居なかったことを思い出した。
私が幼稚園に入って間もない頃、3つ上の兄の側によくくっついていた。兄が遊びに行くとなるとコバンザメのように憑いてまわったものだ。兄からみれば妹というものは手下であり、体の良い小間使いである。やれ「自転車を取って来い」、やれ「オヤツをよこせ」。一緒に遊んでもらう代わりに兄の言いつけは何でも聞いた私は、多少Mッ気があったのかもしれない。
兄は友人等と近所の空き地で、3枚目ヒーローがいなくなった2枚目だらけの戦隊ごっこをしていた。そしていつも私に向かって「怪人になれ」と命令を下した。ピンクレンジャーを期待した私に「キャシャー!キャシャー!」と閑静な住宅街で奇声を発することを命じ、戦隊ヒーローに扮した兄や、兄の友人たちに理由も無くこてんぱんに倒される。ありがたいことに死に様も演劇指導していただき、怪人が爆発する際の「ドッカーン!ビガビガビギャ−!」のような効果音も付け加えさせられた。目の回るような忙しさである。倒れ方が一寸でも狂おうものなら、「もっと格好良く死ね!」と罵詈雑言を浴びせられる日々が続いた。

3枚目が居なくなった後の偽戦士たちのイジメのエネルギーは、『正義』という名を借りて、一番身近にいる自分よりも弱い存在に向けられた。つまり私がその標的となったわけだ。兄は武器を自由自在に操り、悪を倒すヒーローに自分を重ねることによってエクスタシーを感じていたように思える。地面に倒れた私を踏みつけた彼の顔を今でも忘れない、忘れたくない。

「マイクロフィルムがぬすまれた!」「てつのようさいにのりこむんだ!」
今日も子供達は理不尽な戦隊ヒーローと化す。



作者・朝井あこさんの自己紹介とプロフィール
posted by 村松恒平 at 16:08| Comment(0) | TrackBack(0) | コドモの情景 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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