【4】[ドクタII -叫び、リミッター解除- ]
痛みに堪えながら立ち上がると、財布が浮かんでいました。
「ドクタのでしょ、これ」
履き込まれた黒いドクターマーチン10ホール、両膝を結ぶベルトが長く垂れている赤いチェックのボンデージパンツ、赤糸でThree Step To Heavenと刺繍された継ぎ接ぎデザインの白いガーゼシャツを着た赤毛君が、鼻血を流して呻く黄色の顔を踏みながら財布を振っています。
「ドクタ?そ、そう僕の、なんで赤毛君が…」
「八王寺でドクタが落としたんだよ、オレはフィフスね」
「あ、僕は泉野博士です」
財布を受け取りながらお辞儀をすると背中や腰が痛みました。
「イズノヒロシ?イズミノタゴールハカセじゃないの?」
「ハカセじゃなくてヒロシです」
「そうなんだ」
「あの…もう、いいんじゃない?」
「そ?ドクタがいいなら」
どうやら僕を本名で呼ぶ気は無いみたいです。僕が足下を指すとフィフスは黄色の顔から足を下ろしました。
「お前が早くヤラせねぇから面倒になってんじゃんよ」
「はぁ?なんで紗英のせいになってんの、意味わかんないんだけど」
テーブルで灰色と綺麗な顔が言い争っています。あの二人は車の中でもヤル、ヤラない、と言っていました。
「ユーレイの友達潰したらヤラせるっつったろ」
「バカじゃんあんた、タケルが情けなくやられたのとどういう関係があるわけ?」
言葉が終わらない内に灰色はサエを殴りました。サエは吃驚した顔のまま止まっています。
「調子こくなよ、もう遊びは終わりだ。あのガキ片付けたら姦ってやるからな」
髪を掴まれ乱暴に頭を振られると、灰色をコントロールして余裕に満ちていた綺麗な顔に恐怖が放ろがっていきました。
「あら!見ました奥さん、あの人女の子を」
戯けた口調で言ったフィフスの顔は全然笑っていません。
「ねぇ、オレ達帰るけどどうする?」
フィフスがサエに手を振りました。
「ああ?!なめてっと殺すぞガキ」
サエを蹴り倒した灰色がこちらを睨みます。胸を蹴られ呼吸困難になったサエは床に蹲り喘いでいます。
「聞いた?殺すぞって」
振り返ったフィフスが恥ずかしそうに笑いました。
「来た、殴られるよフィフス」
「彼は主張をしているんだよドクタ」
「抵抗せずに被害を最小限に抑えた方が良いよ」
「それって自己中。コミュニケートは言語だけではないよドクタ、ボディコンタクトも有効な手段だ」
笑ったフィフスは突然弾かれた様に僕の横を転がり抜けました。
「てめぇも寝てろインドジン」
消えたフィフスの後に現れた足は、続けて僕を蹴りつけました。僕は無抵抗に後ろに倒れましたが、頭が床に着く前に止まりました。両手で頭を支えてくれているフィフスが僕を覗き込みます。
「受け身とらないとマジ死んじゃうよ。ハイっ、この人の意思に触れてドクタ」
フィフスは僕を立たせ、僕の肘を持って顔の前に腕を置きました。
「ぶっ殺す!」
完全にキレた灰色が攻撃を開始。めちゃくちゃな連打に込められたフィフスへの怒りを僕は必死でガードします。
終わる気配のない打撃に段々腹が立ってきました。
…僕はなぜ我慢してるんだ?
「もう、いい加減にしろよ!」
左脇腹に激痛が走った直後、無意識に僕は叫んでいました。
その瞬間、右肘を引かれ後退した僕にシンクロして前に出たフィフスの左手が、灰色の拳の内側を滑り上がり、素早い捌きで手首に絡みました。
「女の子とドクタの気持ち受け取ってチョ」
ノーモーションでフィフスの右足が側頭部に回し入ると、衝撃に痺れた脳を残す様に膝から崩れた灰色が、白目を剥いて失神しました。
「もう殻に閉じ篭っちゃダメだよ」
僕の手を取ったフィフスが頬をプクッと膨らまします。
「な、なるべく努力するよ」
こんなに殴られたのは誰の所為だと思いながらも、何故か清々しい気分の僕は繋いだ手をしっかり握りました。
フィフスに引かれて立ち上がると、車の陰から何かが転がって来ました。先端に火のついた長い紐が、紙テープをグルグルに巻いた小さな蹴鞠の様な玉から伸びています。
ダイナマイト?!
バタバタ走る音が聞こえ、太っちょが車の向こうのシャッターを上げて逃げていきました。
「あら、そういえばもう一人居たわね。奥さん伏せてらして」
また真顔で戯けたフィフスは、ダッシュで拾った玉をオデッセイの跳ね上がった改造マフラーに突っ込んで、蹲っているサエに被さりました。
直後、ボッと火の粉を散らしてマフラーから飛び出した火球が、割れた窓の向こうの空めざして斜めに駆けあがり、陽の落ちた夏空に金色の花を開きました。
「観た二人とも?」
尾を引いて落ちる火が完全に消えて煙が風に流れて行くのを見つめていたフィフスは、興奮気味にそう言うとポケットから携帯を出しました。
「ハロウ、キョウちゃん今何処?…花火見えた?オレ様だよん…凄いでしょ!そだ、ドクタ紹介するよ…さっき出逢った…野音?…わかった、スィーユー」
携帯を切ったフィフスが嬉しそうに叫びます。
「速攻で野音に行くよドクタ!」
■■■ 作者から一言 ■■■
やっとあがりました、第四章♪
何度でも楽しんでください♪
第三章の後、速攻で第四章をアップさせる筈だったのですが、大変遅くなりました^^;
いろんな事が意図した所に落ちないのは、いつものことなのですxxx
第五章はキョウで行きたいと思っておりますが、はてさて、意図した所へ落ちてくれるかどうか@。@
ご期待下さいm(_ _)m。
■■■ プロフィール ■■■
和倉ぺこ
福岡県生まれ 大阪府育ち 東京都在住
15歳から音楽活動を始め、現在、音楽と物語の創作の為に生きる。
老齢期には児童小説や絵本など、子供の為に物語を創作し、世界中の子供達の手に届けられる様に成る為、日々勉強中。
2007年04月26日
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