2006年11月02日

少年少女 Got Short Dance

【3】[フィフス -流れに乗れ、流れに抗え- ]
 八王寺駅前商店街朱雀通りの楽器屋[アーク]でギター弦を2set買う。いつも行く三軒沢のスタジオ[ダフト]には、お気に入りの弦、スーパー・バレットLRを置いていないんだ。ダフトの店長は音を解ってないね。
 テラスのあるスターバックスを過ぎて左に曲がると、黄色い髪の男が少年を引きずる様に、スモークで車内の見えない黒いバンに運んでいる。車に入る直前の少年から何か落ちたが、男はそれに気づかず運転席に入りバンを走らせた。落ちたモノに駆け寄る、財布みたいだ。拾い上げてバンに振ってみるけれど、バンに止まる気配はない。
「それどうすんだい?」
 すぐ側で、ヒョウ柄のスパッツとBOSSと描かれた紺のTシャツを着たお婆さんが、ボロボロの軍手をはめた手で口に当てたタバコをスーと吸い込んでいる。
「オババ、これどうするよ?」
「あたしが聞いてるんだよボウズ。中に名前やなんか判るものが入ってないのかぇ?」
 煙りを鼻から出しながらオババが言う。財布を開くと[アーク]のメンバーズカードが見えた。
「イズミノ…タゴール…ハカセ!…彼はドクターだよ、凄いねオババ!」
「住所は?あの子酷く殴られてたからねぇ…」
「何で殴られたの彼…あっ」
 50メートル程先の交差点でバンが止まった。
「住所あったかい?」
「いや、直接渡した方が早いよ、追いかけるわオババ」
 ドクタの財布を握って駆け出す。
「そこのギターもあの子のだよ」
 タバコの指す先には、指板部分の長い革ケースがころがっている。
「あれ多分ベースだよオババ、後で取りに来るから預かっといて!」
「しょうがないねぇ、あたしゃ、そこの八百屋だからね」
 家電ビルの向かいに、時代から弾かれた古い八百屋がある。
「サンクス、オババ」
 前方では信号が変わってバンが左に消える。大急ぎで交差点に辿り着くと三車線の真中100メートル程先にバンが見えた。いけるかな、まだ。全力で走る。けれどドンドン離される。他の車に埋もれてバンが見えなくなった時、車の流れが止まった。少し行くと信号にひっかかってるバンが見えてきた。このすきにとスピードを落とさず走り、あと少しまで詰めたところで、三車線に流れが戻った。またみるみる遠ざかる。もう1キロ以上全力疾走してる。呼吸が乱れてきて足を緩めかけた時、ハザードを点滅させたタクシーから着飾った女が降りてきた。いける!力を振絞って距離をつめ、閉まったばかりのドアを叩き、再び開き始めたドアの隙間から中に飛び込む。
「この先を…ハァ…黒いバンが走ってるから…ハァ…追いついて…ハァ…ハァ…ナンバーは…」
 乱れた呼吸でなんとかナンバーを告げる。
「面白そうだねぇ、12年乗ってるけどこういうの初めてよ」
 体を捻って振り返った運転手は嬉しそうに目を輝かせた。

 落日直前の薄暗い街を、ヘッドライトを点けたタクシーは、赤いテールライトをスムーズに抜いてゆく。
 バンは見えない。今、横道に入られたら完全に見失う。運転席と助手席の間に身を乗り出し、過ぎ去る左右の横道を注意深く見てゆく。
「アレだな、白のシビックと黒のセドリックの間に見える追い越し車線のオデッセイ」
確信した声で言い切った運転手の顎が指す先に、黒いバンが見える。
「イヤァ!グッジョブ!」
と運転席のヘッドレストを叩く。
 暫く三車線を走った後、バンは裏道に入り、小さな自動車修理工場へ吸い込まれた。タクシーはその前を通り過ぎて左に曲がり、空き地に停車する。
「15分で戻るから待ってて」
 1万円札を渡しながら言う。
「待つのはいいが、一応名前だけ聞かせてくれるかい?」
「相澤大悟 17歳 フィフスって呼んでチョ」
 運転手に手を振り、ふぃふす…と不器用に繰り返す声を聞きながらタクシーを降りた。
 この空き地は工場の裏手になる。粗大ゴミが散乱し、雑草は生え放題。腰の高さから屋根迄ある、2mx4mくらいの工場の大きな窓からの光が、夕暮れの空き地を片側だけ明るくしている。窓から中をのぞくとコーラ、ポッキー、ポテトチップス等がバラ撒かれたテーブルに三人座っていて、黄色の髪の男が床に倒れたドクタの顔を踏んでいた。
「あら、ほんとに酷いね」
 たしかあそこに…。ゴミの山に刺さった金属バットを取りにいく。バットを肩に担ぐと、窓の5メートル程手前からバットを思いっきり投げる。回転しながら窓に突っ込むバットを追いかける様に走る。ガシャーンという破壊音と共にガラスが砕け散り、直後に響いた女の子の悲鳴を聞きながら大地をキック。ガラスの無くなった大きな窓枠をジャンプで抜けて、工場内のコンクリートで3ステップ、もう一度ジャンプしてドクタの顔を踏む黄色の髪の男の顔に右膝を合わせた。ゴジャッとした感触を抱く膝を倒れてく男の顔から剥がし、左足で着地。
「呼ばれてないけどジャジャジャジャーン!」
 両手をギュニャギュニャしながらそう言うと、
「赤毛君…」
 と、上体を起こしながらドクタは言った。




 ■■■ 作者から一言 ■■■
少年少女Got Short Dance第三章です。
フィフス走ってますねぇ〜 私はもうこんなに走れません…。鍛えなおさないと腰が弱ってきました@。@
第四章は[ドクタII]の予定です。
ドクタとフィフスの交わす言葉に、作者自身も興味津々♪
少年少女GotShortDance第四章[ドクタII](予定)、どうぞご期待ください。

 ■■■ プロフィール ■■■
和倉ぺこ
福岡県生まれ 大阪府育ち 東京都在住
15歳から音楽活動を始め、現在、音楽と物語の創作の為に生きる。
老齢期には児童小説や絵本など、子供の為に物語を創作し、世界中の子供達の手に届けられる様に成る為、日々勉強中。
posted by 村松恒平 at 02:15| Comment(2) | TrackBack(0) | 少年少女Got Short Dance | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
今回の第三話は、何だか一気に読みました。表現なのか、文章の流れなのか、分かりませんが、自分自身が文の中に入った様な感覚で読みました。難しく考える文ではないからでしょうか、何だか、今回の文章が一番好きです。第一話とは、別人の文の様な気がします。(感じたままで、御免なさい。)
Posted by 泰松 at 2006年11月21日 23:31
泰松様 コメント有り難うございます。
気にって頂けた様なので嬉しいです。感じたままの感想が一番欲しいのです^^
次の第4話は[ ドクタII ]なので、第1話の文体に戻りますが、面白い物語になると思いますので、お時間があれば是非読んでみてください♪
ー和倉ー
Posted by 和倉 at 2006年11月24日 18:15
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