2006年09月30日

世紀末の女王(マザー)第三話

 回廊を駆け抜けた十頭立ての乗合馬車は、教会本庁前に止まった。御者の制止声
が大きく響く。この地下国では産業以外の動力はCO2対策を兼ねて動物が使われ、 
燃料の殆どは食料、資源産出と居住地拡大に充てられていた。篠崎 快は小刻みに
動いている馬車から慣れた様子で降りると、この国で最大の門孔の前に立った。
黒々とした大門には教えをモチーフにした天使やマザーの姿などが重厚に刻まれて 
いる。篠崎は彫刻の一つのバグ(虫化人間)を横目で睨みながら通り過ぎると、孔
のゴツゴツした壁面を掌で擦りながら足を進めた。この地下社会では巨岩には親し
みを感じ、親のような安心感を持つ者も多かった。
 今来た回廊の壁面には太陽灯がともされ、羊歯の緑が映えて開かれた感じがした
が、門孔内には数多くのランプが灯り、厳粛な雰囲気が漂っていた。篠崎にはそれ
が少し圧迫感をもたらした。彼は一つのドアを開けた。薄暗い通路を歩いて会議室
に入ると、皆の強い視線が篠崎に集まり、思わず頭を下げる。
「評議会議長がいらっしゃる事になったのよ。それなのにまだ一人来ていないの」
日頃は強気のチーフディレクターの三崎真由美も動揺を隠せないでいる。評議会は
この国の最高機関であり、その議長はマザーの補佐役としては随一の権力を持って
いた。
 「やあ、突然押しかけてきたよ」
登場すると、男は権力者には似合わぬ気さくさで挨拶した。
後に控えたもう一人の男は、無表情に室内の者たちを見渡す。
「これは、これは、議長様にはようこそいらっしゃいました。また、書記官様にも
来て頂きまして…」
「まあ、挨拶は抜きにして、早速、始めよう」 
腕時計を指差しながらの議長の言葉に、チーフは開会を告げ、議長にお言葉を仰いだ。
本来は今回の式典の総括を行う会議であったが、議長の来会により、微妙に変質した。
「今回の式典は素晴らしいものであった。マザーも放映をご覧に成られ、大層お喜
びになられた。ところで、式典の構成をした人間はどなたかな?」 
議長の言葉に周囲の視線が篠崎に集まる。慌てて篠崎は立ち上がり、議長に挨拶する。
議長は篠崎をしばし凝視すると、大きな賛辞を送る。そして、言葉に添えられた議長
の笑顔は、打ち解けにくい篠崎の心を穏やかに緩めた。
 その時、ドアが開き、大柄の軍服姿の男が現れた。チーフが早速、駆けつけ、男に
事情を話す。
「医療軍の山本一尉であります。トラブルが起きまして…誠に失礼しました」
男は頭を下げた。
議長は頷くと言葉を続けた。
「次に先の評議会での概要を伝えよう。岸川君、手短に頼む」 
議長の指示を受け、 書記官は立ち上がる。
「マザーの統治を受けているエリアは現在32箇所あるが、総人口で100万人を突破し
た。地球環境大崩壊後衰退を重ねているかつての大国群の統治人口をついに凌駕した。
既に宇宙ロケットの入手数で世界一になっている我々は、火星問題を解決すれば爆発
的な人口増加それもバグを除く人本来の増加が期待でき、やがてはマザーの統治は、
人類全体に及ぶであろう」 
書記は議長の顔をうかがい、席に座った。
 「現状の支配状況は順調である。諸君らは一層の努力に勤め、虫化人間たちが生涯
産出額を増やすよう、動機付けを果たして貰いたい。その意味で今回の式典チームは、
素晴らしい結果を出した。マザーは喜ばれ、私がそのお気持ちを伝えに来た。
人類再興に、マザーは使命感を持たれ、日々御心を砕かれていらっしゃる。君達の事
も細やかに案じていられる。マザーの恩を一日でも忘れてはならんぞ。」
「ところでトラブルとは何だったのかね」
一尉がすかさず立ち上がった。
「かねてより警戒していた一名が逃亡しました。その者は山田郁夫の孫ですが、昨年か
ら要警戒数値を突破しておりました。今回の式典の効果は残念ながら彼には及びません
でしたが、式典の価値を貶めるものではないと思えます。軍は既に追跡を始めています
ので、近々、身柄を確保します」
「うむ、残念な事ではあるが、これにめげず君達には頑張ってもらいたい。すまんが
我々は、これで退席する。これでも議長は中々忙しくてな」
議長らの退出を全員が立ち、見送った。議長は去り際に篠崎へ笑顔を向けてくれた。
 「いやはや、さすがは議長! 中々の貫禄ですな、さすがの私も緊張しましたよ」
祭司が早速、まくしたてた。篠崎はこの男には馴染めないものを感じている。
「ところで将校さん、山田の孫ってえのはどんな奴なの」 
「まあ、子孫が多ければ、中には出来損ないもいるのだろう。背後関係は今の所ないと
判断できる」
一尉は無造作に会話を打ち切ると椅子に座り会議資料に目を通した。祭司風情とおしゃ
べりを続ける気はないらしい。
「僕は三重野だよ、なんて態度だ、失敬な奴め」  
「まあ、まあ、三重野先生、お座り下さい。」  
鼻白んだ祭司をなだめながら、チーフは会議の再開を告げた。



 ■■■ 作者から一言 ■■■
果物づくりをしていますが、この頃、異常気象の連続で、今までの経験が役に立たなくなってきました。平均気温も上がって来ていて、東北なのに静岡並の暖かさです。
りんごを作っていますが、将来はミカンを作るようになってしまうのでしょうか。

 ■■■ プロフィール ■■■
三人の娘を持つ父です。
姉達二人が久しぶりに家に帰ってきました。
娘たちは身辺の話に盛り上がっていますが、私はニコニコしながら聞いています。
posted by 村松恒平 at 23:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 世紀末の女王(マザー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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