2006年08月04日

少年少女 Got Short Dance

【2】 [ヒメ -落ちたモノ、響く音- ]

 フェンスの上にあがる。7〜8メートル程下には、静明川が足のつかない深さで揺れている。
揺れを見つめながらキャンディーを噛み砕く。バスの効いた快音が頭蓋骨を伝って脳を挑発してくる。目を閉じるとドーパミンにやられたバランサーが体を揺らす。
 心がざわつく時は、この橋に来る。ここから見える世界と、頭蓋骨を伝う脳への挑発音は、私を落ちつかせるから。

「そこから飛んだところで何も変わらないよ」
 突然足元から声がしたので見下ろすと、私の立っているフェンスに頬杖をついた男の子が、真っ直ぐ前を見つめて立っている。同い年くらいかしら、線が細い、高校生だろう。そう思いながら次のキャンディーを噛み砕く。
「落ちてる時ってほんとにスロウになるんだとか、着水時の衝撃って思ったより痛いとか、そういうくだらない知識が脳にメモリーされるだけだ」
 今まさに地平線に消えようとする太陽の欠片を見つめながらそう言った彼の後ろを、自転車で急ぐおばさんが、私と彼を交互に見ながら通り過ぎた。

 ここからの眺めは好き。特に陽が沈む前後の橙、碧、紫、黒、等のグラデーションを描く空に足元の川がユラユラと伸びていくのは美しい。
 いつもは彼の様にフェンスに頬杖なのだけれど、今日はもっと近づきたくなってフェンスに立ってみた。さっき、サエ達に遭ったからかもしれない。何に近づきたいのか解らないのだけれど、彼の言う飛ぶって事なの?

「ちょっとコレ持ってて」
 真っ直ぐ前を見たまま彼は、携帯を私に伸ばした。
「ん?」
 躊躇いつつも受け取ると、彼はサラッとフェンスを飛び越えた。
「えっ!?」
 彼がゆっくりと落ちてゆく。陽の消えた直後の世界では、川はコールタールみたい。風を孕んだ白いシャツがゆったり波打ち、彼は浮いているように思えた。
 バシュっと短くスマートな音と共に、彼はコールタールに消えた。
「何?…何なのよ!」
 私は道路に飛び下り川辺に向かって走った。橋を渡りきって土手の階段を降りると、彼がコールタールから這い上がってきた。良かった、生きてた。
「何考えてんの!あんたバカでしょ!」
 ふうと一息吐き、頭を振って水を切った彼は、立ち上がるとボトボト水を落下させる両腕を水平に広げた。心意を読み取ろうと、その瞳を窺う。

「どっか変わった?」

 一気に力が抜けた。さっき迄のざわめきもすっかり消えて、心がさらりとした。
「ええ、変わったわ。あなたの服は重く、私の脳は他人が落ちてる時でもスロウになるって知識をメモリー」と私は微笑んだ。
「あそこからよく飛んでるの?」携帯を渡しながら橋を指差す。
「否、初めてだよ」と、携帯を受け取りながら彼は言った。
 私の為に飛んだの?この人…。
「キョウだ、棗田今日」彼はニッコリと右手を伸ばした。
 私は自分の名前が好きじゃない…だけど。
「ヒメ、小石川緋芽」と、彼の手に右手をあずけた。彼には素直に名前を言えた。
「ヒメ、良い名だ」
「そう?でもそう呼ぶ人はいないわ、学校の皆はあたしを幽霊と呼ぶの」
「ユーレイ?」
「いない人って事らしい。あたし、友達がいないわけ」
「ヒメには少なくても2人友達がいるよ」
「2人?」
「そ、オレとフィフス」
 …ふぃふす?
「オレの友達はフィフスの友達。だから友達がいないってカッコいい言葉はもう使えないよ」と、キョウは悪戯っぽく笑う。
 キョウか…悪い人ではないのね。
「ありがと…で、ふぃふすって何?」
 キョウは笑い出した。楽しくって仕方がないって感じだ。
「フィフスが何かねぇ!ま、その内解るさ」
 突然バッと爆発音がした。音の方を見ると、紫色の空に大きな花が咲いている。花火…?その花はバチバチと音をたてながら、スーと柳の様に落ちてゆき、ゆっくりと消えた。
「何だろ、野音の演出かな?」
 花の消えた空を見つめたまま彼は言った。今この街にある野外音楽堂で、サマーフェスが行われている。
「野音かぁ、あたし行く筈だったのになぁ」
「何で行かなかったのさ?」
「…チケットね、サイフに入れてると取る子がいるから教科書に挿んでたの、したらお昼休みに教科書全部隠されて。そのまま、夏休みの今も」
「そっか、じゃあ観に行こう」
「え?持ってるのチケット?」
「行きゃ何とかなるっしょ」
「何とかなったらチケット売れないでしょ!」
 無機質な着信音が響いた。このメロディーは知っている、Fly Me To The Moonだ。
「フィフスだ、ちょっと待ってね」とキョウは耳にあてる。ふぃふすは人のようね。
「ハロウ…静明川…おまえか…ドクタ?…そっか、じゃ野音に向かって…連絡するよ」
 携帯を切るとキョウは私の手を取った。
「よし、行こう」
「ちょ、ちょっと…」訳が判らずも、何だか楽しい気分になってきた。
「あ、それから、ヒメの友達は3人になったみたいだよ」
 土手の階段の途中で振り返って、キョウは笑った。



 ■■■ 作者から一言 ■■■
「少年少女GotShortDance 第二章です。ヒメ&キョウが登場しました。第三章はフィフス登場(予定)です。はてさて、これからどのように4人が物語を踊るのか、作者も楽しみです♪どうぞ皆様もご期待くだされm(_ _)m」

 ■■■ プロフィール ■■■
和倉ぺこ
福岡県生まれ 大阪府育ち 東京都在住
15歳から音楽活動を始め、現在、音楽と物語の創作の為に生きる。
老齢期には児童小説や絵本など、子供の為に物語を創作し、世界中の子供達の手に届けられる様に成る為、日々勉強中。
posted by 村松恒平 at 16:43| Comment(2) | TrackBack(0) | 少年少女Got Short Dance | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
一度、第二章に目を通し、もう一度第一章を読み直しました。これで、ストーリーに付いて行けそうです。登場人物も分かって来ました。
読者の、この感覚が狙いの文章の構成なのでしょうか。「付いてこい」ならば最後迄読ませて頂きます。なんだか貴方の理想のメンバーになりそうな展開ですね。第三章を楽しみにしてます
Posted by 泰松 at 2006年08月26日 10:58
泰松様、ご意見有難う御座います。
諸事情により、少し時間がかかりそうですが、第三章も必ずUPいたしますので、
どうぞ、乞うご期待下さい。

あ、私の理想のメンバーではありません。

。。。と言い切れないところもあったりなかったり。。。
Posted by 和倉 at 2006年09月03日 19:43
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/21920658
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック