2007年02月06日

私の×造(チョメゾウ) 「悪童!メンゴ!」

6年生になると、×造は忽然と姿を消した。
一人っ子の×造は団地の同じ棟にいた。小さい頃、近くの公園には、いつも黒眼鏡の×造の「父ちゃん」が一緒で、顔が恐かったけど、俺も色々買ってもらったり、一緒に遊んで貰っていた。
4年生頃からからだろうか、その「父ちゃん」を見かけなくなり、×造の雰囲気も変わってしまった。
目つきが暗く、服装はだらしなく、顔や腕に小さい傷が増え、肌が黒くなった。
実はもともと母子家庭で、「父ちゃん」が蒸発した後、母親が夜の仕事に出るようになり、×造は夜遅くまで、中学生らとゲーセンに出入りしていたらしい。小学生のくせに金使いが荒かった、とも聞いた。
かくして×造は皆から敬遠され始め、×造も仲間に入って来なくなった。

それからしばらくして俺達、普通の小学生も、ゲーセンの大流行に感染した。
その頃のゲーセンは、どこも先客で満席、たいてい中学生以上の連中が、テーブルに小銭を積んで、人気ゲームを占有していた。
そのため俺達は、学校が終わると、とりあえず近所の駄菓子屋に走った。10円のインベーダーやその類いが置いてあったからだ。
但し、そういう店でも、新しいゲームは50円か100円だったから、たまに小金持ちの同級生が遊んでいれば背後に群がって、小便の時などに交代させて貰ったり、ゲームの電源をガチャガチャやって[残数99]とかにするインチキ中学生に媚びたりしていた。

もちろん俺達も、それを良しとしていた訳じゃない。日々、小銭集めには精進した。
夏場はカブトやクワガタを取って、街のペットショップで売り捌き、虫が取れなきゃ自宅や近所の1リットル瓶を片っ端から酒屋に持ち込んで換金した。
売り物が無ければ、近所中の自動販売機を練り歩き、祈りを捧げるように自販機の下を物色した。
酒屋の裏からケースごと空瓶を持ち出して、別の酒屋で換金するやつもいたし、車上荒らしで捕まったやつもいた。
そんな中での小学5年生の春休み、再び俺は×造と接触したのだった。

大型スーパーの屋上にあるゲームコーナーの帰り、俺が出口付近の自販機など物色していると、
「なーにやってるだかっ」と言って、床にしゃがんでいた俺の背後に×造がいた。×造はネックレスなどして、少し年長に見えた。でも立つと俺のほうが大きく、やっぱり調子づいた悪ガキにしか見えなかった。
「いいこん教えてやるから来おし」(いい事教えてやるから来なよ)
戸惑いながらも俺は、手招きする×造に従って、スーパーの駐車場周辺で「使えるレシート」を探し回った。
×造はしたり顔でゴミ箱を漁り、俺は自転車置き場をうろついた。
<T1デンチ2パック * 10 … … 合計\3,700>
と記載のあるレシートを見つけて×造に見せると「オオ、コレ!」と俺から奪い取り、ちょこまかと店内に消えた。

慌てて俺は、2回へ上がっていく×造の後を追った。
×造は、エスカレーターの向こう側の電気関連売り場で、例のレシートを確認しながら、単一乾電池2本パックを丹念に物色していた。
悪いことしてる!そう思った途端、俺は息が止まりそうで、×造に近づけなくなった。
目当ての乾電池を抱えた×造は、エスカレーターから1階へ降りていった。
身を隠していた俺は、わざわざ階段を使って×造を追った。

1階は夕方の買い物客で込み合う食品売り場で、×造は、ひしめく主婦達の間を縫って、一番手前のレジに辿り着いた。俺は隠れて、×造の動作を覗いていた。

レジを打つ店員に×造が何か話した。
店員は驚いたような顔をして、×造が抱えている電池の山を凝視した。
レジを待つ主婦達に会釈した店員は、×造から電池を受け取った。
すかさず×造が、かのレシートを店員の鼻先に差し出した。
レジを待つ主婦が何か言った。再び店員は、主婦達に会釈したが、×造はじっと店員を見ていた。
店員は、電池を置いてレシートを手に取り何か書き込んで、ハンコ?を押し、レジを打って現金と、新しいレシートを×造に手渡した。
×造は少し笑って踵を返し、店員はもう一度主婦達に詫びていた。

颯爽と外に出た×造を追って声をかけると、×造は、さも面倒くさそうに俺を一瞥し、目で人気のない方を指した。
俺は、なぜか気まずい思いで、自転車置き場の一番奥までついて行った。
×造は、俺の手に千円札をのせた。「うそ!」俺は思わぬ収穫に仰天、×造のネックレスが神々しく感じられた。
「明日Yマートでやるから来おし」
そう言って、母親が仕事に出る時間だからと、×造は自転車で走り去った。

それきり、ゲーセンに行っても、スーパーに行っても、×造と会うことはなかった。小学校でも、一度も見かけなかった。
×造は、あの春休み中に補導され、その件で母親と警察の間でもトラブルが起こり、×造だけ別の県の親戚に引き取られたらしかった。

「明日Yマートでやるから来おし」
…約束の当日、俺は恐くなって、家から一歩も出なかったのである。



 作者・chitokuさんの自己紹介とプロフィール


posted by 村松恒平 at 23:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 私の×造(チョメゾウ) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年02月17日

世紀末の女王(マザー) 第五話

 足を踏み込むたびに石くれは動き、砂岩質の石が砕ける。足に蹴られた砂利が体と共に斜面を落ちて行く。強靭な細い脚は、そんな中でも上体をしっかり支え、力強く移動を続ける。
クソッ≠、めき声が思わず、山田博之の口から出る。
祖父を諦められぬ気持ちが博之を発射台に向かわせ、式典会場に忍び込ませた。既に参列者は去り、閑散とした中で、焼け落ちた家の片付けがされていた。博之は気づかれぬように近づいていった。「ちょろいもんだ、遺品の出来上がり」、作業の者が発した言葉、焼けた灰へ骨片と祖父の認識票を投げ落とし混ぜていた所作が、博之の心にわだかまっていた違和感に明確な形を与えた。
全部嘘じゃないか#飼Vは、ほの暗い大洞穴に向かい斜面を駆け下りて行く。
 
 斜面を下り終え息を整える。湿った空気が幾分か喉を潤す。苔があちらこちらに群生し、それらは蛍光を発し薄明の世界が広がっていた。そんな世界を切り裂くように数箇所の裂け目から薄日が差し込んで来る。ここは自然に出来た大洞穴であった。幅数百m、奥行き数kmの大きさがあり、さらに八方に細い洞穴が広がっていたが、全体的に砂岩質が多く、地盤の脆さから開発は断念されていた。科学者はこの地に苔やキノコの菌糸を蒔き、幾種類かの昆虫と動物を放っていた。放牧した動物を誘引源で引き寄せ、集まった動物を捕まえる仕事で博之はこの地を訪れていた。

 『じいちゃん』祖父の顔が浮ぶ。
博之が社会に対する疑念を口にだすと祖父は悲しい顔をした。
俺らは罪を償わなきゃ、ならんのさ。地上で散々悪事をしてた報いだ。それをマザーは救ってくれた。どんなに酷くても、マザーに着いて行くしか道はねえ
祖父は博之の頬を撫でた。
『じいちゃん、騙されていたんだよ。あいつ達、俺らを笑っていたよ』
博之は祖父の行方を問い詰めようと、その作業員が一人になるの待ったが、途中で発見され、逃走して来たのだ。
「きっと、爺ちゃんを助け出すんだ」改めて心に誓い、博之は歩き始めた。
もう少し行くと湧き水あり、喉を潤すことが出来る。この一帯には土地勘があった。博之の足音に驚いたのか小動物が岩陰に逃げ込む。博之は念のため周囲を見回し物音を探る。
『大丈夫だ』 まだ、追手の足音は聞こえなかった。
 
 地面にころがっている大石を、博之は巧みに避けながら走ってゆく。水音が聞こえ、足が速まる。前方には丁度、差し込んだ薄日が湧き水を柔らかに照らし出していた。近寄って見ると湧き水は白銀のように輝き、波紋を広げていた。博之は喉の渇きも忘れ、それをしばし眺める。波紋は向こう側で溢れ、音を立て細い水路となって流れいく。
その水音に別の音が重なる。顔を上げると遠方から小型飛行船が近づいて来る。博之は身を伏せると岩陰に後退する。上部の対落石プレートが薄日を反射させ飛行船は行き過ぎる。
『医療軍め』 船腹には医療軍の赤十字が大きく描かれていた。
飛行船は去り、博之は湧き水の中に乱暴に両手を入れ、水をむさぼり飲む。
記憶が蘇り、顔を上げる。
『鍾乳洞だ、しばらく中に隠れていれば追手も諦めるかもしれない』鍾乳洞はすぐ近くにあった。偶然、博之が発見したが、医療軍には知られていない可能性があった。
 
 鍾乳洞への割れ目に体を潜り込ませると、ひんやりとした冷気が体を包んだ。傍らには水が流れている。立ち上がって暗闇の中を上流へ進む。虫化された目にはぼんやりと視界が開ける。遠くの水音が重なりながら聞こえている。博之はゆっくり歩を進めた。二手に分かれた洞穴を前にして博之は腰を下ろした。右側の洞穴から水が流れて二手に分かれ、一方が左側の洞穴へ流れていた。

 なにげなく掬った水の冷たさが、辛い記憶を蘇らせた。
『あさみ…』 
冷たくなってしまった頬、掌、強く抱きしめると壊れそうな頼りなさに、溢れる感情を声に乗せ、ただ泣くしかなかった。恋人の突然死、それは虫化人間の社会では百人に二人の割合で生じていた。司祭たちは神の招きとして祝福し、来世は人として生まれてくるからと博之を慰めたが、実際は、人に虫の遺伝子を組み込んだ為の弊害であったことを博之は知らない。

 暗闇はまた一つ過去の記憶を浮び上げた。
大好きだった叔父の突然死、それは恋人が亡くなってから一月も経たずに起きた。工事中に突然倒れ、家に運ばれて来た。ヘルメットを被った煤けた顔が、表情をなくし博之に向けられたいた。叔父の妻や子たちが泣きながら遺体にすがっていたのを、立ち尽くし博之は見ていた。大切な人の死の重なりが社会への違和感を生み、それ以来、博之は違う目で社会を見るようになった。
掌から水が流れ落ちる。
そして遅れてやって来た悲しみが、身を突き刺し、博之は背をかがめ両足を抱いた。



 作者・マグナジオさんの自己紹介とプロフィール
posted by 村松恒平 at 22:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 世紀末の女王(マザー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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