2006年08月03日

ぱおーん@でんき惑星(電気ポット)

 電気ポット。をめぐるステキなストーリーを考える。

 しかし家にはポットは無い。湯は鍋で沸かす。実物が無いのでイメージが湧かぬ。故にくだらぬ事しか思いつかないのである。

 例えば、電気ポットスポーツ。

 電気ポット投げ! ハンマー投げのようにポットを投げる。村おこし?
 電気ポットスキー! 両足にポットを履いて、猛スピードで直滑降!
 電気ポットスキューバー! ポットを抱いて湯出口から空気を吸って潜る。ゆっくりと回転する愛。 これじゃ変態。

 電気ポットマシーン。
 
 電気ポットロボ! 巨大湯沸かし器。
 電気ポットシャベル! 土をすくってその後は?
 電気ポットカー! ポットの下にタイヤが付いていて、時速30キロで走る。

 ん? イイかも。

 ……。ポットだから、お湯が沸く。湯に浸かりながら移動できるオープンカー。露天風呂の気分でどこへでも行けるのだ。お湯はヌルめ、長く入っていられるし。揺れるとこぼれるので半身浴が基本だ。これで女をナンパする。全裸か半裸。百歩譲って水着姿でないと乗車は認められない。それ用に、レモンイエローのビキニも用意する。完璧だ! 動くリゾート! このまま本物のリゾートに出かければ、行き帰りのつまらない時間がすべて有意義に使えるわけだ。サイコー! ナイスアイデア! 
 などと、アホな事しか思いつかぬのだ。

 とまあ、そんな経緯もあって電気量販店に出かけた。買うつもりは無い。

 初日。電気ポットを見る前に高級マッサージチェアのコーナーで、うおおスゴイスゴイとマッサージしまくり、5台をハシゴしているうちに閉店時間となった。ポットは見れず仕舞い。揉み返しで気分が悪くなる。

 2日目。今度こそ電気ポットを見るぞと意気込んだのだが、またマッサージチェアでモミを試す。うーん気持ちイイ。メーカーによって強めに揉むところと、やさしく刺激するものと違いがある。首が得意なところ、足が得意なところ、色々である。これはメーカーのコンセプトがそれぞれハッキリしてるのだなあと、深くうなずく。ついつい揉みの強いところを選んでしまいがちだが、そこをあえてソフトなマッサージプランを出しているということは、こちらの方が実は疲れが取れるのだろうか。強すぎる揉みは、逆に疲れてしまうのだろうか。などと考える。そうこうしているうちに携帯電話がなって、飲んでるから来いと連絡が入り、ポットは見れず、そのまま飲み会へ。

 3日目。ついに電気ポットのコーナーにたどり着く。

 ? 俺は目を疑った。電気ポットだらけなのである。60個程の乳白色の円筒形の物体が平たく積まれた箱の上に密集して並んでいるのである。多い。予想以上の盛況振りである。こんなにホットなのか、電気ポット。熱いぞ電気ポット! 

 しかし、最近の電気ポットは、イカツイ。家電にあるまじきデザインだ。ツッパリ君のヘアースタイルのようなコワモテの皆さんがズラーッと勢揃いしている光景は軍隊のマスゲームのようにも見える。何なのだ。何故そんなに威圧的なのだ。

 まさか、電子頭脳を得た彼らは反逆を? そういえば、彼らは自由に液体の温度を調節できる。ということは様々な細菌やバイオ細胞なども培養できるわけで、つまり、生物の生態系に影響を与える事が可能なのだ。もし、このまま彼らが進化し続ければ、生命さえも作る。そうか、そうだったのだ! 彼らが次の時代の覇者かもしれない。可能性はある。体内で有機物を合成できる電化製品。だからこんなに威圧的なのだ! 
 
 デモンストレーションで電源の入っていたポットは、なんの前触れもなくいきなりものすごい音で沸騰したりする。
 さっき沸騰したじゃないか、また沸騰するのか。それも次々と次々と、それぞれのメーカーごとに沸騰する、湯気を出す。シュゴゴゴ、ブシュブシュ! ブシャ! ブシ! ブショ! ブシ! シュボボボボ! 凄まじい音である。
 しかも、輪唱である。重奏である。なんなのだ君らは! 何を訴えておるのだお主らは! 疲れる、ビビル。こんなに自己主張する家電も珍しいのである。これに匹敵するのは、昔の洗濯機の脱水音くらいだ。しかも、洗濯物が偏っていて変な感じでグアッタンゴットンなるやつである。こんなものが部屋にあったら、落ち着いて本も読めぬではないか!

 ふう……。俺はとんでもない物を相手にしようとしていたのだ。デカイ。ゴツイ。イカツイ。むやみに沸騰する。そいつらが隊列を組んで並んでいる、
 小さきロボット兵士。反抗中。
 皆でお茶を入れる。反抗中。
 皆で湯気をだす。反抗中。
 蒸気で壁を濡らす。反抗中。
 うーん、こんなことしか思いつかぬ。疲れた。ヘトヘトだ。なのに電気ポットの話を書かねばならぬとは。俺は困った。非常に困っているのである。

 帰りにマッサージをもう一度やった。あんまり来ると嫌な客になってしまうので、ほどほどにしなければと思う。温泉にいきたい。電気ポットカーで。



作者・火星紳士さんの自己紹介とプロフィール
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2006年08月04日

コドモの情景 第1話

  『キレンジャー無き後の怒りの矛先は何処へ・・・。地球の平和(半径200m以内)を守れ!』

『ヒーロー』。この言葉を聞いて反応しない男の子は少ない。子供の頃は誰もが憧れる戦隊ヒーローは初代から数えて現在、30組目が活躍している。

戦隊ヒーローは基本的に5色の全身タイツのような衣裳にベルトや長靴を装着して『ちきゅうのへいわ』を守るために、まともな職につくこともせず日夜『あくのそしき』にアンテナを張り巡らせている5人の戦士である。
大抵の場合、赤は正義感が強いリーダー、青は少しキザな二枚目、緑は心の優しい知的な青年、ピンクは美人でじゃじゃ馬なお姉さん、との設定がなされており、子供達は好きなヒーローに自分を投影させて遊ぶ姿をよく見かけることがあるが、問題は黄色である。

戦隊ヒーローモノの草分け的存在『秘密戦隊ゴレンジャー』のDVDのパッケージには
『アカレンジャー・・・ゴレンジャーのリーダーだ』
『アオレンジャー・・・かっこうよくてメカのうんてんがとくい』
『ミドレンジャー・・・どうぶつがとってもだいすき』
『モモレンジャー・・・かがくがとくいなやさしいおねえさん』
と各戦士の写真と人間性を判りやすく説明したキャプションが付け加えられていたのだが、キレンジャーの場合
『カレーがだいすきなんだ!』
だけで終えられている。
ポパイのように食べることによって力が強くなるようなことではないらしい。ただのカレー好きをアピールされることによって、「あっ、ボクもカレーが好きだから」とキレンジャーを崇拝する子供は少ないように思える。
毎回カレーライスを満面の笑顔でたいらげるキレンジャーによって、子供達のカレー欲をMAXまで高めたであろうことは想像に難くない。しかしやはり人気がなかったのか、当時のレトルト食品会社でキレンジャーを前面に押し出したカレーが登場したことはなかった(最近31年目にしてやっと、『キレンジャーカレー/中辛』が発売されたらしい)。

力持ちという設定でもあるキレンジャーに武器はない。至近距離で敵を抱きかかえて骨を痛める“阿蘇山絞め”やヒッププレスの“阿蘇山落とし”という技で相手を倒す。柔術を応用し悪人の腰骨を外して、人体を二つ折りにする『必殺仕事人』よりも地味な技だ。ついでに顔は3枚目、西郷隆盛を彷彿させる博多弁で挙句の果てに肥えて俊敏な動きもままならない。そんなキレンジャーの横では、他の2枚目な戦士たちが鞭や弓でスマートに敵をやっつけていた。

最近は戦士全員がアイドル並みの顔立ちとなり、人情味溢れるヒーローはどこにもいない。愚鈍な少年が3枚目役をやる必要も無くなり、子供達全てがはあくのそしきをやっつける正義の2枚目のヒーロー気取りだ。最近の少年達の戦隊ごっこに少々の物足りなさを感じたが、私が小さい頃もすでに戦隊ヒーローのなかにキレンジャーのような存在が居なかったことを思い出した。
私が幼稚園に入って間もない頃、3つ上の兄の側によくくっついていた。兄が遊びに行くとなるとコバンザメのように憑いてまわったものだ。兄からみれば妹というものは手下であり、体の良い小間使いである。やれ「自転車を取って来い」、やれ「オヤツをよこせ」。一緒に遊んでもらう代わりに兄の言いつけは何でも聞いた私は、多少Mッ気があったのかもしれない。
兄は友人等と近所の空き地で、3枚目ヒーローがいなくなった2枚目だらけの戦隊ごっこをしていた。そしていつも私に向かって「怪人になれ」と命令を下した。ピンクレンジャーを期待した私に「キャシャー!キャシャー!」と閑静な住宅街で奇声を発することを命じ、戦隊ヒーローに扮した兄や、兄の友人たちに理由も無くこてんぱんに倒される。ありがたいことに死に様も演劇指導していただき、怪人が爆発する際の「ドッカーン!ビガビガビギャ−!」のような効果音も付け加えさせられた。目の回るような忙しさである。倒れ方が一寸でも狂おうものなら、「もっと格好良く死ね!」と罵詈雑言を浴びせられる日々が続いた。

3枚目が居なくなった後の偽戦士たちのイジメのエネルギーは、『正義』という名を借りて、一番身近にいる自分よりも弱い存在に向けられた。つまり私がその標的となったわけだ。兄は武器を自由自在に操り、悪を倒すヒーローに自分を重ねることによってエクスタシーを感じていたように思える。地面に倒れた私を踏みつけた彼の顔を今でも忘れない、忘れたくない。

「マイクロフィルムがぬすまれた!」「てつのようさいにのりこむんだ!」
今日も子供達は理不尽な戦隊ヒーローと化す。



作者・朝井あこさんの自己紹介とプロフィール
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妄想竹は電車の中ですくすく育つ <ゆりこさんと雄一さん>

 その朝はいつもよりも混んでいて、人の波に押された私に残された席は優先席しかありませんでした。そこで仕方なく優先席に座って、会社に着くまでひと時の至福の時を過ごそうとしていました。もし年寄りが乗ってきたとしても混雑にもまれて腰が伸びるので、この時間帯はむしろ立っていた方が好いと思います。

 しばらくうとうとしてから(今考えると)うかつにも目を一寸明けて周りの様子を見てしまいました。すると妊婦のゆりこさん(仮称)がふらふらこっちの方に歩いて来るのが見えました。空いている席を求めて車両を端から端まで歩き回って身も心もくたびれて戻ってきた様です。ゆりこさんはご主人の雄一さん(仮称)のところに行って うるうるした目を投げかけながら「あーん すわれなかったのぉぉ」など 甘えた声で報告をしているようです。幸運だったのは、私は優先席右端に座っていたので左側の二人とは一寸離れていたことでした。

 この雄一さんゆりこさん夫婦はいつも私と同じ電車に乗っているのですが、共稼ぎなのでしょう、仲良く座って、(いつまで続くか見物ですけど)手を握って新宿まで通勤しています。職場結婚だと思うのですが、恋愛中は職場の目を気にして,あまりいちゃいちゃできずに、せいぜい同じエレベータで二人っきりになったときにこっそりキスしたくらいです。(それを二人はシンドラーエレベータに乗るよりドキドキするねと笑うのですからいい気なものです)そのため結婚したら思いっきりいちゃいちゃしています。ゆりこさんは妊娠8ヶ月くらいでしょうか。

 以前は、私と同じように10分前から並んで確実に座っていたのですが、どうも最近、雄一さんとゆりこさんは朝が遅くなって発車ギリギリになってようやくホームに現れます。
 きっと、焼きたてのトーストを前に、ゆりこさんの大きくなったおなかに雄一さんが手をあてて 「動いてぅ パパデチゥー パパデチゥーヨー ワカルカニャー」などと 電車の中ではできない、あんなことこんなことをして遅れているに違いありません。
「パパ 私のお腹大きくなって嫌いになったぁ。」 女は決まった答えしか言えない問いを発するそうです。
「ウーンバカだなぁ、そんなこと無いよ。」    
 男は心にも無いことを言える動物だそうです。
「あのね、私妊娠していい事があったのよ。」
「なんでシュかぁ。」
「子供の頃からおへそに詰まっていた脱脂綿が全部きれいに取れちゃったの。」
 開いた口がふさがりません。こんなことを話していて、家を出るのが遅れて座れないのですよ!
 ですから余計なお世話と思っても「おなかの子供のことを考えたらそんなことしている時間ないでしょ。」と、お姑さんみたいに言いたくなります。

 二人は恨めしそうに我々を見ています。ゆりこさんは少し肩で息をしながら雄一さんに寄りかかっています。顔がだんだん青ざめてきています。このままでは出産は必至です。
 ガタンとゆれた瞬間に、アーィーと言う甲高い悲鳴と共にゆりこさんはしゃがみこんでしまいます。その足元からは血なんだかなんだか判らないものがドゥドゥ渦を巻きながらあふれ出ています。それはあっという間に車中に溢れ、あろうことか私までも巻き込んで鳴門の渦のようにぐるぐる引き込んでゆきます。
 助けてと叫ぼうとしても血が口の中に流れて苦しいのなんのって!生まれたばかりの赤ちゃんが、ぷかぷか浮かんで私の頭をポコポコ叩いては笑っています。小さな手が私の頭をぐいぐい押さえつけます。もうだめだ死んじゃう!と思ったところで目が覚めました。S宿駅に着いたようです。知らないうちにすっかり寝てしまったようです。
 と言うわけで、寝てしまったので残念ながらゆりこさんに席を譲ってあげる事はできませんでした。これに懲りたら、明日からは早く並ぶことでしょう。



作者・なら よつねさんの自己紹介とプロフィール

少年少女 Got Short Dance

【2】 [ヒメ -落ちたモノ、響く音- ]

 フェンスの上にあがる。7〜8メートル程下には、静明川が足のつかない深さで揺れている。
揺れを見つめながらキャンディーを噛み砕く。バスの効いた快音が頭蓋骨を伝って脳を挑発してくる。目を閉じるとドーパミンにやられたバランサーが体を揺らす。
 心がざわつく時は、この橋に来る。ここから見える世界と、頭蓋骨を伝う脳への挑発音は、私を落ちつかせるから。

「そこから飛んだところで何も変わらないよ」
 突然足元から声がしたので見下ろすと、私の立っているフェンスに頬杖をついた男の子が、真っ直ぐ前を見つめて立っている。同い年くらいかしら、線が細い、高校生だろう。そう思いながら次のキャンディーを噛み砕く。
「落ちてる時ってほんとにスロウになるんだとか、着水時の衝撃って思ったより痛いとか、そういうくだらない知識が脳にメモリーされるだけだ」
 今まさに地平線に消えようとする太陽の欠片を見つめながらそう言った彼の後ろを、自転車で急ぐおばさんが、私と彼を交互に見ながら通り過ぎた。

 ここからの眺めは好き。特に陽が沈む前後の橙、碧、紫、黒、等のグラデーションを描く空に足元の川がユラユラと伸びていくのは美しい。
 いつもは彼の様にフェンスに頬杖なのだけれど、今日はもっと近づきたくなってフェンスに立ってみた。さっき、サエ達に遭ったからかもしれない。何に近づきたいのか解らないのだけれど、彼の言う飛ぶって事なの?

「ちょっとコレ持ってて」
 真っ直ぐ前を見たまま彼は、携帯を私に伸ばした。
「ん?」
 躊躇いつつも受け取ると、彼はサラッとフェンスを飛び越えた。
「えっ!?」
 彼がゆっくりと落ちてゆく。陽の消えた直後の世界では、川はコールタールみたい。風を孕んだ白いシャツがゆったり波打ち、彼は浮いているように思えた。
 バシュっと短くスマートな音と共に、彼はコールタールに消えた。
「何?…何なのよ!」
 私は道路に飛び下り川辺に向かって走った。橋を渡りきって土手の階段を降りると、彼がコールタールから這い上がってきた。良かった、生きてた。
「何考えてんの!あんたバカでしょ!」
 ふうと一息吐き、頭を振って水を切った彼は、立ち上がるとボトボト水を落下させる両腕を水平に広げた。心意を読み取ろうと、その瞳を窺う。

「どっか変わった?」

 一気に力が抜けた。さっき迄のざわめきもすっかり消えて、心がさらりとした。
「ええ、変わったわ。あなたの服は重く、私の脳は他人が落ちてる時でもスロウになるって知識をメモリー」と私は微笑んだ。
「あそこからよく飛んでるの?」携帯を渡しながら橋を指差す。
「否、初めてだよ」と、携帯を受け取りながら彼は言った。
 私の為に飛んだの?この人…。
「キョウだ、棗田今日」彼はニッコリと右手を伸ばした。
 私は自分の名前が好きじゃない…だけど。
「ヒメ、小石川緋芽」と、彼の手に右手をあずけた。彼には素直に名前を言えた。
「ヒメ、良い名だ」
「そう?でもそう呼ぶ人はいないわ、学校の皆はあたしを幽霊と呼ぶの」
「ユーレイ?」
「いない人って事らしい。あたし、友達がいないわけ」
「ヒメには少なくても2人友達がいるよ」
「2人?」
「そ、オレとフィフス」
 …ふぃふす?
「オレの友達はフィフスの友達。だから友達がいないってカッコいい言葉はもう使えないよ」と、キョウは悪戯っぽく笑う。
 キョウか…悪い人ではないのね。
「ありがと…で、ふぃふすって何?」
 キョウは笑い出した。楽しくって仕方がないって感じだ。
「フィフスが何かねぇ!ま、その内解るさ」
 突然バッと爆発音がした。音の方を見ると、紫色の空に大きな花が咲いている。花火…?その花はバチバチと音をたてながら、スーと柳の様に落ちてゆき、ゆっくりと消えた。
「何だろ、野音の演出かな?」
 花の消えた空を見つめたまま彼は言った。今この街にある野外音楽堂で、サマーフェスが行われている。
「野音かぁ、あたし行く筈だったのになぁ」
「何で行かなかったのさ?」
「…チケットね、サイフに入れてると取る子がいるから教科書に挿んでたの、したらお昼休みに教科書全部隠されて。そのまま、夏休みの今も」
「そっか、じゃあ観に行こう」
「え?持ってるのチケット?」
「行きゃ何とかなるっしょ」
「何とかなったらチケット売れないでしょ!」
 無機質な着信音が響いた。このメロディーは知っている、Fly Me To The Moonだ。
「フィフスだ、ちょっと待ってね」とキョウは耳にあてる。ふぃふすは人のようね。
「ハロウ…静明川…おまえか…ドクタ?…そっか、じゃ野音に向かって…連絡するよ」
 携帯を切るとキョウは私の手を取った。
「よし、行こう」
「ちょ、ちょっと…」訳が判らずも、何だか楽しい気分になってきた。
「あ、それから、ヒメの友達は3人になったみたいだよ」
 土手の階段の途中で振り返って、キョウは笑った。



作者・和倉さんの自己紹介とプロフィール
posted by 村松恒平 at 16:43| Comment(2) | TrackBack(0) | 少年少女Got Short Dance | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月13日

私の×造(チョメゾウ) 「×造が飛んだ」

色濃い青空に雲はまばらで、忘れた頃にトビが横切る、初夏の穏やかな午後。
整備された河川敷よりも、草木の生い茂る未整備部分のほうが多い、二級河川の広河原の出来事。

痩身の男が太った女の手を引いている辺りは、ススキに似た雑草が繁茂する草むらで、子供たちの秘密基地が出来たり、浮浪者が小屋を作ったり、あるいは勝手な畑が散在する、謂わば公然無法地帯である。水辺には、川の流れと並行して、古い杭がいくつか打たれていた。
先頭で草を掻き分けていた男は、杭に気がつくと歩を止め、女はそこで、一畳分くらいのシートを広げた。男と女は、素早く下半身だけ脱いでシートの上に重なった。
……ぴーひょろー
その遥か上空、トビの位置から俯瞰すると、微動する、男の白い尻だけが目立っていた。

そのひとつ向こうの杭の辺りで蜥蜴が、厳密には三匹のニホンカナヘビが、交尾を巡って右往左往していた。カナヘビ×子は、身体を緩慢にくねらせながら、絡みつくカナヘビ×造に身を任せていた。×造は、無我夢中で×子の身体に巻きつき、どこをどうすればいいのか、手探り足探りで奮闘していた。
×子は経験があったけれども積極的ではなく、ただ×造に、好きなようにさせているだけに見えた。
傍らでは、事の直前に×造が打ち負かした、隻眼の老カナヘビがうろつき回り、×造と×子の所作を見るともなしに見ていた。
×造は、右の目で老カナヘビをけん制し、左の目で×子の腰つきを追った。若き×造は、初めてにしては過酷な交尾をそうとは知らず、交尾の目的も知らず、さらには相手が×子である根拠も無かったけれども、一心不乱に努力した。

事を終えた痩身の男は、空に向かって喫煙した。
太った女は下着をつけるとバッグを抱いて立ち上がり、雑草をバッグで押しのけるように、下流のほうへ歩き出した。
男はしばらく空を見ていたが、やがて煙草を投げ捨て、大股で女の後を追った。

何度目かの失敗で、×造が×子の身体から手足を離したとき、急に×子は一目散に走り出した。あっけに取られていると、老カナヘビが×子を追った。いや、大きな何者かの近づく気配に逃げたのだった!
音を立てて藪を薙ぎ倒す足音が近くで聞こえた。×造も逃げ出したかったが×子の行方が分からない。硬く尖った部分が引っ込まない。
躊躇していると、少し先の草薮の隙間から、古い杭に這い上がる老カナヘビが見えたので、×造は真っ直ぐ、杭に向かった。
×造が杭にたどり着き、必至で這い上がっていると、その脇を老カナヘビが落ちるように降りていった。落ちたようにも見えた。気になったが、大きな何者かの足音がすぐ近くに聞こえるので、留まるわけにはいかず、ついに×造は杭の突端に躍り出た。
そこに×子の姿は無かった。殺風景な広河原が続いているだけだった。(しまった!)
背後に太った女の気配が迫った。眼下の草むらの少し先には、同類の移動する背中が見えた。
(×子か!)老カナヘビかもしれないが、問答無用、×造は杭のてっぺんから飛んだ。
手足をいっぱいに広げて、恐れず、力まず、飛んだ。
  (×子おおお、つづきをしよううう)

突然、風が起こり、×造の姿は無くなった。

……ぴーひょろー
太った女は、目の前を飛んだトビに驚いて立ち止まり、あっという間に遠ざかる影を見送った。
痩身の男は、女に追いつき、女の右手を掴んで踵を返した。男に手を引かれる女は、素直に従っているように見えた。

安全地帯に逃げ込んだ×子は、老カナヘビと交尾を始めていた。
獲物を捕らえたトビは、悠々と旋回しながら上昇した。
我に返った×造は、自身の尻尾を切ってトビの脚から脱出した。
初夏の穏やかな午後、二級河川の遥か上空で、風に揉まれて木の葉のように空を舞う×造なのであった。



作者・chitokuさんの自己紹介とプロフィール
posted by 村松恒平 at 20:51| Comment(0) | TrackBack(1) | 私の×造(チョメゾウ) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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